愛知県衛生研究所

魚介類中の水銀濃度から魚の食べ方を考える

2024年7月8日

2005年11月、厚生労働省は、魚を食べることにより摂取される微量のメチル水銀が胎児に影響を与える可能性があるとして、妊婦**を対象とした魚介類の摂取に関する「注意事項」を公表しました。

これは、その約2年半前(2003年6月)に出された「注意事項」を見直したもので、注意の必要な魚介類として、前回のサメ、メカジキ、キンメダイ、一部のクジラ(7魚種)に、マグロ類(クロマグロ、メバチマグロ、ミナミマグロ)3種をはじめ8種類が追加され、全部で15種類の魚介類について、妊婦が1週間に食べてもよい量と回数が目安として示されました。2010年6月の改訂でクロムツが追加され、現在は16種類の魚介類で目安が示されています(表1)1)

「注意事項」の対象は妊婦に限定されたもので、子供や一般の人に対しては、現段階では通常食べる魚介類による悪影響が懸念される状況ではないことから、「注意事項」の対象とはしないとされています。また、魚介類の摂取は人の健康に有益であり、この「注意事項」が魚介類の摂食の減少につながらないように正確に理解されることを期待したいとされています。

なお、今回妊婦が注意すべき魚介類として名前があがった16種の中にはクジラ(3種)、イルカ(2種)、サメ(1種)など、普段一般的な日本人の口にはあまり入らないようなものも多く含まれています。

表1 妊婦が注意すべき魚介類の種類とその摂食量(筋肉)の目安
摂食量(筋肉)の目安魚介類
1回約80gとして妊婦は2ヶ月に1回まで
(1週間当たり10g程度)
バンドウイルカ
1回約80gとして妊婦は2週間に1回まで
(1週間当たり40g程度)
コビレゴンドウ
1回約80gとして妊婦は週に1回まで
(1週間当たり80g程度)
キンメダイ
メカジキ
クロマグロ
メバチ(メバチマグロ)
エッチュウバイガイ
ツチクジラ
マッコウクジラ
1回約80gとして妊婦は週に2回まで
(1週間当たり160g程度)
キダイ
マカジキ
ユメカサゴ
ミナミマグロ
ヨシキリザメ
イシイルカ
クロムツ
2010年6月追加

注意事項の経緯

注意事項はどのようにして作られたか

妊婦への魚介類の摂取と水銀に関する注意事項のQ&A(平成22年6月1日改訂)[PDFファイル]2)より、水銀一日摂取量の平均値が8.17μg/人/日(57.2μg/週)であり、このうち魚介類から7.18μg(50.3μg/週)、その他の食品から0.99μg(6.93μg/週)でした。注意事項の経緯の3)から、妊婦の耐容量は2.0μg/kg体重/週ですので、妊婦の平均体重を55.5kgとすると一週間当たりの耐容量は(2.0x55.5=111で)111μg/週となります。すなわち、妊婦を含めた日本人は平均的に妊婦の耐容量の半分を少し上回る量の水銀を摂取していることになります。

魚介類からの水銀摂取(50.3μg/週)のうち一般魚介類からの割合をどれくらいに見積もるかについては、我が国の15~49歳の女性における水銀摂取量の調査で、一般魚介類からの水銀摂取量はほぼ半量(50.3÷2=25.2μg/週)であったとされています。

以上の数値から、厚生労働省では妊婦が注意すべき魚介類の摂取可能量(回数)を算出する目安の試算基礎となる1週間当たりの水銀の耐容摂取量を以下のように仮定しています。

1週間当たりの水銀摂取量
1)他の食品から(上記調査値)
32.1μg/週=一般魚介類25.1μg/週(50.3μg/週÷2)+ (その他の食品6.93μg/週)
2)注意すべき魚介類から
78.9μg/週=妊婦の耐容量111μg/週(2.0μg/kg×55.5kg)-他の食品からの摂取量32.1μg/週(25.2+6.93)

注意すべき魚介類

注意すべき魚介類は、魚介類の水銀の暫定規制値である総水銀0.4ppm、メチル水銀0.3ppmを超えるものを選び、さらに、摂食量を1回80gとして、週に3回食べたときの水銀摂取量が78.9μg/週を超えるもの(すなわち、上の仮定で妊婦の耐容量(111μg/週)を超えてしまうもの)とされています2)。上記の注意すべき魚介類から水銀の耐用摂取量に基づき、当研究室では、妊婦におけるそれら魚介類の摂食回数の目安を表2-1にまとめました(薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会(平成22年5月18日開催)配付資料一覧、魚介類に含まれる水銀の調査結果(まとめ)3)から作成)。

一般の魚介類

一般の魚についてはあまり述べられていないので、注意すべき魚介類を週に1~2回食べたと仮定し、一般の魚介類の食べ方について水銀濃度から考えてみます。魚介類に含まれる水銀の調査結果(まとめ)3)から、比較的食べる回数の多い魚介類を選びました。ただし、計算はメチル水銀のデータがそろっていなかったので、総水銀の値で行ないました。一般的に、魚のメチル水銀含有量は総水銀の75~100%とされています。したがって、魚からの摂取量をやや高めに見積もることになります。一般の魚介類からの水銀摂取量25.1μg/週を基に、摂食量を1回80gとして、食べる回数を計算してみました(表2-2)。比較的水銀濃度の高いマグロ類、カツオ、ブリ等の魚種(0.15ppm以上)では週に1~2回ですが、ほとんどの貝類やエビ、イカ、タコなど水産動物では回数を考えなくてよさそうです。

表2-1 1週間当たりの摂食回数(注意すべき魚介類)
注意すべき魚介類総水銀メチル水銀80g摂食時
水銀摂取量
摂食回数
の目安
検体数平均値検体数平均値
μg/g=ppmμg/g=ppmμg/回回/週
鯨類 バンドウイルカ 5 20.840 5 6.622 530 0.1
コビレゴンドウ 4 7.100 4 1.488 119 0.7
魚類 キンメダイ 145 0.654 102 0.535 43 1.8
メカジキ 51 1.003 49 0.712 57 1.4
クロマグロ(本マグロ) 163 0.687 140 0.525 42 1.9
メバチマグロ(バチマグロ) 113 0.832 91 0.539 43 1.8
貝類 エッチュウバイガイ 20 0.417 10 0.485 39 2.0
鯨類 ツチクジラ 5 1.168 5 0.698 56 1.4
マッコウクジラ 13 2.100 5 0.700 56 1.4
魚類 キダイ 54 0.313 34 0.343 27 2.9
マカジキ 35 0.515 32 0.372 30 2.7
ユメカサゴ 177 0.361 139 0.309 25 3.2
ミナミマグロ(インドマグロ) 102 0.506 95 0.386 31 2.6
ヨシキリザメ 30 0.544 30 0.350 28 2.8
鯨類 イシイルカ 4 1.035 4 0.370 30 2.7
クロムツ 173 0.393 142 0.339 27 2.9
表2-2 1週間当たりの摂食回数(一般の魚介類)
一般の魚介類総水銀80g摂食時
水銀摂取量
摂食回数
の目安
検体数平均値
μg/g=ppmμg/回回数/週
魚類 キハダ(キハダマグロ) 209 0.270 22 1.2
クロマグロの幼魚(メジマグロ) 36 0.165 13 1.9
ビンナガ(ビンチョウ) 21 0.229 18 1.4
マグロ油漬フレーク 24 0.110 8.8 2.9
アユ 191 0.062 5.0 5.1
ニジマス 71 0.079 6.3 4.0
イサキ 171 0.059 4.7 5.3
ウナギ 230 0.060 4.8 5.2
カツオ 79 0.154 12 2.0
サケ 85 0.034 2.7 9.2
サワラ 121 0.036 2.9 8.7
サンマ 195 0.052 4.2 6.0
シロギス(キス) 147 0.046 3.7 6.8
スズキ 604 0.146 12 2.2
マダイ 478 0.127 10 2.5
ブリ 199 0.145 12 2.2
マアジ 378 0.049 3.9 6.4
マアナゴ 89 0.059 4.7 5.3
マイワシ 159 0.024 1.9 13
マガレイ 65 0.042 3.4 7.5
マサバ 212 0.151 12 2.1
マダラ 73 0.099 7.9 3.2
ワカサギ 34 0.017 1.4 19
鯨類 ニタリクジラ 94 0.048 3.8 6.5
ミンククジラ 874 0.154 12 2.0
貝類 アサリ 254 0.008 0.6 39
カキ類 388 0.007 0.6 45
マガキ 98 0.010 0.8 31
ハマグリ 73 0.012 1.0 26
ホタテ 234 0.009 0.7 35
水産動物 イカ類(種不明) 66 0.039 3.1 8.1
スルメイカ(マイカ) 141 0.054 4.3 5.8
エビ類(種不明) 108 0.018 1.4 18
ブラックタイガー 64 0.018 1.4 18
タコ類(種不明) 61 0.029 2.3 11

妊婦さんの魚の食べ方は?

我が国の15~49歳の女性の平均一日魚摂食量が73.6gであることから、毎日1回魚を食べるとすれば、1週間当たりでは500g程度と考えられます。したがって、あくまでも目安ですが、注意すべき魚介類を1~2回食べたら、一般の魚介類を3~5回、魚食のメリットを生かすようにバランスよく、大きな魚や小さな魚、赤身の魚や白身の魚、貝類や水産動物(エビ、イカ、タコ)等、魚種が偏よらないように組み合わせて、適量を食べるようにすればよいと考えられます。

最後に

妊婦さんが「注意事項」を参考にして、魚を選んで食べるためには、市販品の表示が正確であることが不可欠です。また、今回データ不足で検討からはずされた魚介類についても調査が継続され、今後とも「注意事項」を見直していくことが必要と考えられました。

参考資料等

参考資料

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