アニサキス症(Anisakiasis)
海産魚介類が感染源の食品媒介寄生虫症で、日本において発生件数の多い食中毒です。幼虫(第3期幼虫)が寄生しているサバやイカなどをヒトが食べると、胃壁や腸壁に穿入し、激しい腹痛を起こす寄生虫症です。
病原体
体長20-35mm、体幅0.4-0.6mmで頭端に穿孔歯を有します。
ヒトから検出されるアニサキスは形態学的にAnisakisⅠ型幼虫に分類されるAnisakis simplex, AnisakisⅡ型幼虫のAnisakis physeterisおよびPseudoterranova A型幼虫のPseudoterranova decipiensの3種が知られています。
Anisakis simplexついては遺伝的多型があり、6種類に分類されます。
生活史
成虫は終宿主であるイルカ、クジラなどの胃壁に寄生し、虫卵は糞便とともに海中へ排出されます。
海中で孵化した第2期幼虫は中間宿主であるオキアミに摂取されると第2期から第3期幼虫となり、待機宿主であるサバやイカなどの魚介類に第3期幼虫の状態で寄生します。これらが終宿主に食べられると成虫になりますが、ヒトに食べられると成虫とはならず、幼虫が胃壁や腸壁に頭部を潜入させることで激しい腹痛を引き起こします。
日本での食中毒発生状況
刺身や寿司など海産魚介類の生食を嗜好する食習慣と深く関連しており、アニサキスを原因とする食中毒は1事例当たりの患者数は少ないのですが、発生件数が多いことが特徴です。令和元年から過去5年間において、アニサキスを原因とする食中毒件数は年間約100~500件の発生があり、いずれの年も食中毒事件数のトップ3に入っています(図4)。
臨床症状
- 1.胃アニサキス症
- 魚介類の生食後数時間して、激しい腹痛、悪心、嘔吐をもって発症します。人体症例の大半がこの症状を呈します。
- 2.腸アニサキス症
- 虫体が腸に穿入して発症します。胃アニサキス症と同様腹痛や嘔吐などの症状が見られます。時に腸閉塞や腸穿孔を併発することもあります。
- 3.消化管外アニサキス症
- 稀ではあるが虫体が消化管を穿通して腹腔内へ脱出後、腸間膜などへ移行し肉芽腫を形成することがあります。
- 4.アニサキスアレルギー
- 魚介類の生食後に蕁麻疹を主症状とするアレルギー症状を認めることがあります。アニサキス抗原が体内に入っても1回目は症状を認めませんが、2回目に同様の抗原が入ってくると発症します。
予防方法
- 原因食品として報告の多いサバやサンマなどの魚種の生食を回避
- 冷凍処理(-20℃、24時間以上)
- 加熱処理(60℃で1分以上)
- 漁獲後に内臓から筋肉へ移行することが多いため、新鮮なうちに内臓を除去
※一般的な料理で使う食酢、醤油やわさびを使用してもアニサキス幼虫は死滅しないので注意してください。