ノロウイルス感染症と嘔吐下痢症の集団発生
2014年1月14日更新
愛知県におけるGII.4変異型ノロウイルスの検出状況 (2013/14シーズン)
昨シーズン(2012/13シーズン)は、全国的にノロウイルスに起因する感染性胃腸炎が、2006/07シーズンの大流行に次ぐような規模で推移しました。2006/07シーズンには、GII.4(遺伝子グループ2で遺伝子型4)ノロウイルスの遺伝子変異型(2006b型)が新たに出現し、大規模流行の要因となりました。昨シーズンもGII.4の新たな遺伝子変異型(2012型)が出現し、全国的に流行しました。表1に愛知県の感染症発生動向調査事業で搬入された感染性胃腸炎患者からのノロウイルス検出状況(変異型検出を含む)を示しました。11月のGII.4陽性の3検体と12月の2検体が2012変異型でした。また、今シーズン(2013/14シーズン)に県内で発生した食中毒疑い8事例(10月と11月の各2事例及び12月の4事例)全てから、昨シーズンと同じGII.4 2012変異型が検出されています。感染性胃腸炎の流行期に入り、変異型GII.4の今後の動向が注目されます。
臨床症状
ノロウイルスによる急性胃腸炎の主な臨床症状は、下痢、嘔吐、腹痛や軽度の発熱です。通常は2〜3日ほどで回復しますが、乳幼児や高齢者、体が弱っている人などでは脱水や合併症により重症となることがあります。ノロウイルスはウイルスが口から入ることにより感染しますが、食物や水に含まれるウイルスだけでなく、患者の便や吐物に含まれるウイルスによる汚染あるいは空気中に舞い上がったウイルスを含む飛沫を介した二次的な感染があります。症状が消えた後も3〜4日、長い場合は1〜2週間程も便にウイルスが排出されるので、感染予防上の注意が必要です。
治療は脱水予防など対症療法を行い、ウイルス特異的治療法は現在ありません。したがって流行時に全ての患者に対してノロウイルスの確定診断をする必要度は低いですが、臨床症状のみからノロウイルスと断定することは困難です。ノロウイルス感染の確定診断には糞便のウイルス学的検査が必要となります。
集団発生例
諸外国では、病院やホテル、飲食店、客船(クルーズシップ)などにおける集団感染例が多く報告されており、アメリカでは年間2300万人の発生があると推定されています。
ノロウイルスは食中毒の原因ウイルスとしてよく知られていますが、食中毒事例以外にも、患者の嘔吐物を長時間放置したためノロウイルスを含むエアロゾルによる空気感染が示唆された事例、嘔吐物の処理が不十分で周辺の環境汚染がノロウイルスの感染拡大を招いた事例、あるいは胃腸炎症状を呈していた児童が給食当番をしたことによる学校内での集団発生事例などが報告されています。これらの事実は、ノロウイルス感染症が食中毒としてだけでなく、感染症としても対処が必要な疾患であることを示しています。
消毒
嘔吐物や下痢便の処理にあたっては手袋、マスク及び眼鏡あるいはゴーグルを着用し、感染性廃棄物として、密封状態で運搬・処理する必要があります。また、処理に使用した用具や嘔吐物周囲も広めに消毒が必要です。ノロウイルスは比較的消毒薬に強く塩化ベンザルコニウムは無効、70%アルコールでも完全な消毒はできません。従って200ppm以上の次亜塩素酸ナトリウム(塩素系消毒剤)で処理するか、85℃1分以上加熱消毒する必要があります。
ノロウイルスは経口感染するウイルスですが、口に入るまでの感染経路には接触が原因であったり、吐物周囲に生じた飛沫が原因であったり等、多様な形態が想定されますので、集団発生の原因究明にはウイルス学的検査とともに詳細な疫学情報の収集が必要となります。
感染予防
ノロウイルス感染予防のワクチンは実用化されていません。ノロウイルスは経口感染するウイルスですので、手洗いとうがいの実践が一番の予防法となります。手洗いはせっけんと流水を適切に使用してウイルスを物理的に洗い流すことが重要です。特に、調理前や汚物などを処理した後は、念入りに手洗いして下さい。加熱すべき食品は、85℃1分以上の加熱を徹底して下さい。