オウム病
平成14年1月16日付けの新聞紙上で、松江市のフォーゲルパーク(トリと気軽に触れ合うことができる体験型のトリの展示・飼育施設)でオウム病の集団感染が発生したことが報道され、最終的には飼育員5名と来園者11名、計16名がオウム病に集団感染するという事件となりました。
このオウム病の原因となる病原体は、クラミジアと呼ばれる細菌とウイルスの中間の生物学的性質を持つ微生物の一種であるクラミジア・シッタシイです。オウム病は本来、動物の疾病であって、ヒトはクラミジア・シッタシイに感染した動物(主としてオウムやインコなどの鳥類)から感染する人畜共通感染症の一つです。オウム病の病原体が、オウムから初めて分離されたことからオウム病と名付けられましたが、ニワトリ、ガチョウ、シチメンチョウ、アヒル、ハト、インコなどオウム以外の家禽類、野鳥、愛玩鳥においてもクラミジアに感染したトリが確認されていますので、オウム病と呼ぶよりもトリ病と呼ぶほうが適切と思われます。
ヒトへの感染経路
クラミジアに感染しているトリは糞便中にクラミジアを排泄します。乾燥した糞便が、ほこりや羽毛などとともに舞い上がり、ヒトはそれを吸入することで感染します。クラミジア感染鳥に口移しで餌を与えたり、また、感染鳥の羽根、排泄物や鼻汁に直接触れたりなど、トリとの濃厚な接触で感染することもあります。
臨床症状
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トリの場合
- さえずり、おしゃべり、水浴びが少なくなるか、まったくなくなる。
- 餌や水の摂取量が減少する。
- 飛翔が低下し、活動性が悪くなる。
- 羽毛を逆立て、肛門、口、眼孔の周囲が浸出物で汚れる。
- 脚と翼の振せんと麻痺が認められる。
トリはクラミジアに感染しても、極めて軽い症状で回復するか、あるいはまったく症状を示さない不顕性感染で終わる場合が多い。しかし、回復したトリや不顕性感染のトリは長期間、あるいは断続的に糞便中にクラミジアを排泄し、ヒトへの感染源となることがあるので注意が必要です。
ヒトの場合
軽度のインフルエンザ様の症状から、多臓器障害を伴う劇症型まで極めて多彩です。 一般的には、約10日間(4〜14日)の潜伏期の後、急激に発症し、以下のような症状が出現します。
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- 軽症:上気道感染の症状で、風邪との鑑別が困難である。悪寒を伴う38〜39.5℃の発熱、咳、頭痛、全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛などがみられる。
- 中等症:下気道感染が起こり、異型肺炎の症状が現れる。
- 重症例:全身症状を伴う異型肺炎で、全身臓器に病変が認められるようになる。特に、肝臓、脾臓や心臓が炎症を起こし、さらに、脳神経に異常をきたして死亡する場合もある。
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治療
オウム病患者に対する第1選択薬は、マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシン、エリスロマイシン等)またはテトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン等)です。ニューキノロン系抗生物質(オフロキサシン、シプロフロキサシン等)も有効ですが、セファム系抗生物質(ゲンタマイシン等)は無効です。オウム病は、早期診断と早期治療で完治できる病気です。
予防
オウム病予防のためのワクチンは、開発されていないので、感染しているトリ類への接触には注意が必要です。愛玩鳥の全てがクラミジアに感染している訳ではありませんが、トリへの過度の接触をさけ、トリにストレスを与えないように飼育することが必要です。トリに触れたらよく手を洗うこと、部屋の掃除をこまめに行なうことや素手で糞に触れないことなどが、オウム病の感染予防ために大切なことです。