委員会情報
委員会審査状況
子ども・子育て対策特別委員会
( 委 員 会 )
日 時 令和5年7月18日(火) 午後1時~
会 場 第8委員会室
出 席 者
犬飼明佳、日高 章 正副委員長
久保田浩文、ますだ裕二、林 文夫、浦野隼次、伊藤貴治、高橋正子、
天野正基、江原史朗、藤原 聖、神谷まさひろ、各委員
松田 茂樹 参考人(中京大学 現代社会学部 教授)
福祉局長、福祉部長、子ども家庭推進監、関係各課長等
<議 題>
我が国における少子化対策・子育て支援施策の概略と課題について
<会議の概要>
1 開 会
2 委員長あいさつ
3 議題について参考人からの意見聴取
4 質 疑
5 閉 会
《参考人の意見陳述》
【参考人】
ただいま御紹介にあずかりました中京大学の松田です。
私は、少子化について、また、少子化対策について社会学の立場から研究している者です。この立場から、今、日本の少子化が何によって起きているのか、そして、解決するにはどのような方向性が必要かを話したいと思います。
具体的な内容に入る前に、私の強みと弱みをさきに話します。
強みについては、この少子化の問題を、日本の全体像を、鳥の目から全体を捉える。また、データ的な裏づけをしていく、これは、私がかなり強いところだと思います。
一方、弱みについては、個別具体的な事例に疎いところがあります。特に、市町村や県庁の方と話をすると、何かよい先進事例はないかという質問をよくもらいますが、そのようなところが非常に弱いので、逆に皆様から勉強させていただければと思います。
本日は、政府の関係府省庁会議の資料をベースにしています。
総域的な少子化対策を推進というのが今日のテーマです。総域的な少子化対策とは、私の著書からになります。つまり、幅広くやっていくことが必要ではないかという問いかけです。内容は、2021年に書きました拙著からになります。以降の資料には、できるだけデータの出所などを書いていますが、書いていないものについては、この本の中からと理解してほしいです。
では、早速ですが、日本の出生率の推移と特徴について話したいと思います。
まず、我が国の出生率と出生数の推移です。
我が国の出生率は、なかなか回復基調に乗らず、ずっと少子化が続いています。
人口学の視点から見て、1970年代半ばからずっと続いている出生率の下落を少子化と呼んでいます。つまり、我が国は、かなり長い時間をかけて少子化が進んでいることが分かります。
実際に少子化が社会問題化したのは、1990年の1.57ショック以降ですが、そこから少子化現象が始まったわけではなく、もう少し長いスパンで起きています。それゆえに、この出生率を低迷させてきた要因は、いろいろなものがあります。
そして、コロナ禍で出生率は一段と低下しました。コロナウイルスそのものが原因ではなく、それに伴う景気低迷や行動制限です。未知のウイルスに対応するためには、行動制限はやむを得なかったと思いますが、その副作用として、出生率や出生行動に関しては、かなり低迷することになりました。
現在の出生率の水準では、国や社会の持続は非常に厳しいので、出生率を回復基調に戻すことが必要です。
なお、出生率、出生数、将来人口については、どれか一つが決まれば、他が決まりますので、出生率を回復させることは、長期的な目標として、出生数や将来人口の下落も止めていくイメージを持っていると理解してほしいです。
出生率の下落要因について、人口学的には、未婚の影響、結婚した後の夫婦の子供数の影響と二つに分解ができます。それぞれ見ると、基本的には未婚化による影響がかなり大きいことが、社会学者も含めて、人口学者の間では共通認識を持っています。ただし、出生率下落の90パーセントは未婚化の影響であるという論文がありますが、それは少し推計が大き過ぎます。
ここで理解すべきことは、未婚化の影響は大きいが、それに加えて、夫婦が希望するだけ子供を持てなくなってきている状況も無視ができないほど影響があり、この両方を見ることが必要だということです。
コロナ前の状況で、若干数値が古いですが、アジア、特に東アジア、それから、南欧、西欧、北欧、北米と、主要国の合計特殊出生率の水準を持ってきました。
何を言いたいかというと、ほぼ全ての国が少子化ということです。少子化は、出生率の水準が約2を下回り、長期的に低迷することですが、2を上回っている国はないです。ただ、健闘している国はあります。
また、北欧は、出生率が高いというイメージがありますが、よく見ると、そうでもないです。フィンランドなどは、ほとんど日本と変わりません。
つまり、それぞれの地域に出生率が比較的高い国があり、一方で、低い国もあります。
この中で、東アジアが最も出生率が低迷している地域です。これが非常に問題です。
ただし、この中で見ると、日本は、かなり健闘していることが分かります。
我が国の出生率、当時1.33、現在は1.26ですが、韓国、台湾、香港、シンガポールなどは、非常に低いです。ちなみに、中国は1.2ぐらいだと推計されています。それらの国の方と話をすると、日本は何でそんなに出生率が高いのだと質問されます。これについては、我が国がこれまで少子化対策をある程度やってきたことが影響していると私は見ています。
日本の出生率が東アジアの中で比較的高い理由は何かというと、日本の女性の出産、学歴、就業のパターンがある程度多様だからという研究があります。これは、私の副指導教授だった方で、慶應大学の名誉教授の津谷典子先生の研究です。
具体的には、日本の有配偶女性における第一子、第二子、第三子の出生率が、他の国よりも下がっていません。この理由として、就業や出産のパターンがある程度、多様であるからではないかという分析があります。
出生順位別の合計特殊出生率の推移を御覧ください。
上が第一子、真ん中が第二子で、下が第三子です。長期的には、第一子が下がっていることが分かります。これが出生率を低迷させています。ただし、注目してほしいのは、第三子です。過去10年ほどの推移では、あまり下がっていません。第三子は、全体に占める割合は非常に少ないですが、一定割合ずっと続いていることが日本の出生率の水準をここまで維持しています。中国や韓国、東アジアほど下がっていません。
では、以上を参考にして、出生率を回復させるための少子化対策に求められる視点の話をします。
まず、少子化の社会に与える負の影響について、押さえたいと思います。少子化は、社会にとって良いものだという議論が世の中にあることは承知していますが、恐らくうそだろうというのは私の意見です。瞬間的にはそうかもしれないですが、中長期的に見ると、明らかに少子化は、国の国力を奪い、社会保障基盤を悪くし、国民の生活を貧しくします。ですから、少子化は悪いと思います。
その上で、少子化の悪い影響を止めるにはどうしたら良いかというと、これは根本的な要因である少子化を止めるしかありません。先ほど、少子化の流れを変えるという話が委員長からありましたが、それしかないと私は思います。ただし、時間はかかります。
また、政府や自治体が少子化対策をしていく中で、個人の選択に関わっていく部分があり、大きく分けて二つの議論があります。
一つは、個人の自由という議論があります。結婚や出産は個人の自由ですから、そこに関わるべきではない、介入すべきではない。これは大事なことだと思います。
そこで忘れていることは、長期的には、社会が存続し得なくなってきています。その下で、個人の自由をどこまで維持できるかという問題に応えられていないと思います。
一方、社会全体のためだから、結婚、出産をどんどん促すべきという社会的・理論的な立場があります。ただし、やはり危険なところもあって、個人の自由な選択、自由な行動を阻害しかねないというところです。
私が提案するのは、両者をうまいところで調和できないだろうかということです。
現在、政府は、希望出生率1.8を掲げています。近い将来の達成は難しくなってきていますが、ただ、中長期的には目指すべきものだと私は思います。そうしなければ少子化は止まらないからです。そのときに、大きくは二つの、どちらを目指しますかということがあると思います。
左側は、横軸に結婚する人の割合を取ります。100パーセントだと、全員結婚すれば100パーセントという意味です。縦軸に、結婚した夫婦の子供数を取ります。全員が結婚して、そして、全夫婦が2人子供をもうけると、出生率2.0になります。100パーセント、1です。1掛ける2.0ですから2.0になります。これが、合計特殊出生率が回復したときの面積です。
極端な話をすると、全員が結婚し、全員が子供を2人産むような社会に持っていくことができれば、出生率は回復します。
高度経済成長を終えた頃の日本がこれに近く、当時は皆婚社会で、全ての人が結婚していました。夫婦の多くが2人子供を産む、二人っ子化とも言われました。ただし、方向性としては、これではないと思います。
結婚したくない人は結婚しない、子供をもうけたくない人はもうけないという選択がある上で、出生率2.0を回復するにはどうしたら良いかというと、多く子供をもうける家庭が一定割合いないといけません。これで全体が2.0になります。このような社会が、結婚や出生のパターンが多様な社会だと思います。また、選択の自由が残されています。
では、そうするためには少子化対策は何が必要かというのが次です。
大きく三つの視点が必要であると思います。これは、国全体で見たときの話です。
その前に申し上げると、若い世代で、主体的に結婚や出産を希望しない方がいます。その方は、その選択が応援されるべきです。
ただし、当然ながら、そこで出生数は下がります。しかしながら、そこで減る出生数、出生率以上に、社会的・経済的に応援されて、希望するだけの数を持てる夫婦がいます。それが全体としての出生数を回復させていく。これが、少子化対策の大きな方向性ではないかというのが提案です。社会人口を持続させながら、個人の結婚や出生における自由な選択を維持できる自由な社会の姿だと思います。
三つの要素について説明しますが、皆様の自治体にも関係します。
一つ目は、横軸です。希望する人が1人でも多く結婚できるようにしていく、これは必要です。これが、最も出生率に効果があります。これは異論がないと思います。
二つ目は、縦軸です。これは異論があるかもしれませんが、希望する家庭全てが希望する数の子供を持てるようにしていくことです。
従来の対策と私の視点は違いますが、この場合、家族の就業等の状態にかかわらず、応援されるべきではないでしょうか。つまり、共働きであろうが片働きであろうが、もちろん独り親世帯であろうが、しっかり応援されていくことが必要ではないかと思います。また、特に、多子世帯への支援が必要になります。多子世帯は、子供3人以上の世帯と定義します。理由は、一定割合、多子世帯がいないと、出生率は回復しないからです。
三つ目は、主体的に結婚、出産を選択しない方がいるということです。その選択は、応援されるべきです。しかしながら、その方には、できれば子供を産み育てる人を応援する側に回ってほしいというのが私の意見です。これがないと、主体的に結婚、出産をしないことが私の自由ですという方が、結婚、出産をして一生懸命次世代を育てている方にフリーライドしてしまう構造になってしまいます。これは少し良くないと思います。
日本の出生率を低迷させる要因について、私のオリジナルの議論があります。
これまで少子化対策について長年研究してきました。先行研究もかなりの数を読んできました。自分でも分析しています。結論を言いますと、出生率を低迷させている要因は、たくさんあるというのが、この国の現状だと思います。
何を申し上げたいかというと、原因をシングルイシューに求めるべきではないということです。何か一つの要因を解決すると、どんどん出生率が回復していくような未来は、少なくともないと思います。
具体的な要因は何かというと、ここに書いたものが主な要因です。これは私の分析だけではなくて、社会学者や人口学者、経済学者含めて、たくさんの方が分析してきたものです。多くのことは皆様も御存じだと思います。そこを確認するとともに、実は通説と違うものがあります。それも、今日、話したいと思います。
一つ目として、未婚化を進める要因があります。理由は何かというと、つまり未婚化の進行というものが出生率を下げている大きな要因ですから、結婚を難しくしている要因というのがやはりインパクトが大きいわけです。基本的な押さえるべきことは、若者の多くは結婚したいと考えています。多くの調査で、8割から9割の若者は、いずれ結婚したいと考えているが、結婚ができない、あるいは、遅くなってしまう。そうした状況にあることです。
何が理由かというと、大きくは三つだと思います。
一つ目は、経済的な問題です。明らかに経済基盤の弱い若者は、結婚への移行が遅いです。あるいはできない。ヨーロッパと比較すると、日本はその傾向が顕著です。
二つ目は、出会いの機会の不足です。これも多くの調査で出るものです。適当な相手に巡り会わない。これは未婚の男性も女性も多くの人が挙げるところです。
三つ目は、私自身が分析すると、仕事を重視する方は、結婚するタイミングが明らかに遅いです。家庭生活を重視する方は、結婚するタイミングが早いです。性別役割分業を支持しない方は、結婚するタイミングが遅いことになります。ただし、これは、いずれも主体的な理由で、本人の望む価値観です。
次に、夫婦の子供数を抑制している理由です。最大の理由は、子育てや教育にかかる経済的な負担の重さです。これは多くの調査で出ています。特に、第三子以降のところ、第一子、第二子は頑張れても、第三子以降で、この経済的負担を考え、やめようと断念するような結果になっています。
次が、晩婚、晩産からくる不妊の問題です。未婚化の結果、この晩婚、晩産になり、不妊の確率が上がっています。
また、3番目に子育て自体の負担が大変になっています。周りの親族や地域の支援は少なくなり、地元地域で子育て仲間が楽しく子育てをする、そうした関係も築きにくくなっていると、そのような背景もあります。
四つ目に、仕事と子育ての両立を挙げておきました。
この両立の問題、やはり大きいと思います。
ただし、通説と異なる点を申し上げます。それは、通説では、正社員の女性、特に、仕事一筋の女性において、やはり機会費用が高く、仕事も大変ですから、どうしても子供を持ちにくい。これは正しいです。そのような結果が出ます。
ただし、通説と違うところ、プラスアルファがあります。それは、非正規雇用で働く女性です。彼女たちも子供を持ちにくい。それは、実は、キャリア女性と同じ程度です。そこについて、少し対策として抜け落ちている可能性があります。
通説と違うことを言います。政府の会議でも言って、ポジティブなのかネガティブなのか、すごい反響がありました。夫の労働時間が短いと、実は出生が起こりにくいです。通説は、逆です。私も通説どおりだと思っていましたが、後ほどのデータでもお示しする三つのデータで同じ結果が出ます。これは悩ましいところです。長時間労働は是正されるべきだと思います。しかしながら、過度に是正すると、出生にマイナスの影響を与えかねない。つまり、子育て世帯の所得を下げるのだと思います。
最後は、個人の価値観です。
三つ目のブロックの話は、省略しますが、何かというと、進学や就職による地方から都市、特に若者の東京への移動です。そうすると、全国的に出生率が低迷してしまいます。
ちなみに、今の話、もう少し構造化すると、これは、日本だけではなくて、東アジア諸国で少子化がかなり進んでいると申し上げました。それに共通するフレームではないかと考えています。
理由は、出生率の低下、少子化というものが未婚化によってかなり影響されるということです。これは、欧米にはありません。特にヨーロッパではないです。なぜかというと、婚外子が多いからです。
そうなると、日本と東アジアの少子化の背景要因を知るためには、少子化の要因そのものだけではなくて、未婚化の要因も見る必要があります。これは、先ほどのスライドと同じです。
では、何が主な要因かというと、一つではないと思います。さっきと同じで、雇用の問題、教育の問題、両立の問題、価値観の問題、幾つかのものが関係していると思いますが、最低四つだと見ています。
それは何かというと、世界共通の背景として、グローバル化と市場経済化というものがあります。そして、日本を含むアジア諸国に共通の要因として、圧縮近代というのがあります。欧米が長い期間かけて近代化したもの、発展したものを、日本を含むアジアは、急速に短い期間で達成しました。しかし、そのゆがみがいろいろなところに来てしまっています。
あとは、労働市場の問題もあります。
主な背景要因のバックデータを説明します。
一つ目は、未婚化の背景要因として、この左の図は何かといいますと、未婚の男性の職業と結婚しやすさの関係だと思ってください。青いところが正社員で300万円以上の人を基準とします。1倍としたときに、正社員だけれども年収が300万円未満の若者は、このオッズ比、倍率に直して半分ぐらいになります。さらに、非正社員だと、オッズ比はもっと下がって30パーセントぐらいになります。そして、無職ですと、さらに下がります。
女性については、男性ほど明瞭ではないですが、非正社員の女性は明らかに結婚が遅い、難しいというのは分かります。無職の女性もそうです。
次に、日本の出生率が、ある程度の水準に維持している理由として、出産や就業のパターンが、ある程度多様だと申し上げました。
これは、2019年の全国家族調査で、末子がゼロから6歳を取ります。これは、妻の就業形態です。大体、正社員、非正社員、無職が3分の1ぐらいずついます。無職、専業主婦世帯は、3分の1より少しいますが、3分の1と言います。そうしますと、ある程度、いろいろな人がいます。
そうなると、いろいろな立場の方を応援していくことが大事ではないかと思います。
これが夫婦の出生力低下の背景です。理想の子供数を持てない最大の理由は、子育てや教育にお金がかかり過ぎるからです。特に本人年齢が35歳未満が多いです。したがって、経済支援、特に若い世代をどうするか、これが課題かと思います。
なぜ経済的な理由が上位にあるのかというと、児童のいる世帯の平均所得の推移ですが、過去、あまり上がっていない、むしろ下がっています。これは児童のいる世帯だけではなく、世界に比べて、若い世代の賃金があまり上がっていない。
ちなみに、徐々にですが、上がっている世帯は、高齢者世帯です。
そして、児童のいる世帯はどうなるかというと、年齢層別に見たときに、児童がいるということは、恐らく多くの場合、夫婦と子供がいます。その世帯の1人当たりの所得水準に直すと、すごい低いです。これでは、子供を産み育てると余計苦しくなっている。だから、経済的な理由で子供をもうけられない、もうけたくない、これは合理的な判断であると思います。
次は、就業です。
これが夫と妻の出生意欲の低下で、後ほど見てください。
ちなみに、最近低下しているのが夫のほうです。長期的に、過去15年ぐらいですか、夫のほうの子供をもうけたいという意欲が下がっています。
父親の労働時間の話があります。父親の育児頻度が高いこと、これは子育てでは大事です。具体的には、母親の育児負担や育児不安を明らかに軽減します。
ただし、一般的な家庭で、正社員の男性の父親の労働時間の長さは、育児頻度の長さとトレードオフの関係にあります。当たり前ですが、労働時間が長くなれば家庭に帰る時間が少なくなるので、子供との関わりが少なくなります。そして、その労働時間の長さ、実はある程度長いことが夫婦の出産を促す要因になっています。そして、雇用の安定にもつながっているという現実があります。そう考えると、最後、どうするかという落としどころが、少し悩ましいところです。
なお、父親の育児頻度が増えると追加出産が促されるかで、ダイレクトにはそうではないようです。これは、ほかの先生が統計的に分析しています。ただし、母親の育児不安を軽減しますから、それを経由しての間接効果があると私は思います。
では、これまでの少子化対策について、我が国が何をしてきたのか。我が国は、どのような少子化対策をしてきたのか。
この表は、私が整理したものです。
我が国の少子化対策を、過去3期に区切りたいと思います。
1期目、これは、1990年代です。エンゼルプランがつくられ、それから、緊急保育対策等5か年事業などが始まりました。
最初、この第1期の特徴は、保育対策中心に行われたことです。当時、最も問題であったと認識されたのかと思います。
そして、第2期です。その後、2000年代から2010年代半ば、安倍政権になる前ぐらいまでのイメージです。保育と両立支援を両輪として少子化対策が行われてきました。代表的な例としまして、次世代育成支援対策推進法は、この典型的なものだと思います。
そして、第3期、2010年代半ば以降ですが、明らかに対策の幅を拡大しています。結婚支援が入り、地方創生が入り、幼児教育の無償化が始まり、不妊治療助成が始まるなどです。不妊治療の保険適用が始まります。これを見ると、明らかに対策の幅は広がってきています。
ちなみに、第1期が保育中心で、第2期が保育と両立支援を両輪としてという話は、当時の少子化対策の白書にそのまま書いてあります。
では、このような少子化対策がどのくらい効果があったかという議論です。厳密な分析というのは、私も含めてこの分野の人間、研究者もできていないところです。それだけ簡単には対策の効果を分析し切れないというのが、この分野だと思います。
ただし、明らかなことは、少なくとも第1期と第2期の出生率は回復しなかったということです。
第1期と第2期、保育と両立支援を両輪として、大事な政策であったと思います。
よく考えてみると、これらは、全体を対象にしていません。保育園を利用している人は、基本的に夫婦ともに就業している人です。少し前までは、非正規の妻パート世帯の人は、なかなか保育園、特に低年齢児は預けにくかったという現状もあります。加えて、両立支援といったときに、例えば、育児短時間勤務、育児休業制度などを思い浮かべると思います。誰が利用できるかと考えると、ほぼ正社員です。育児休業は、法律上は正社員であっても非正社員であっても取ることが可能です。しかしながら、現実問題として、制度的に取れるのは正社員です。なぜかというと、非正社員は、育児休業を取るまでに1年以上働いており、さらに育児休業を取った後に働き続ける雇用が続くという見込みがあるという前提を満たすと雇用主から認められて育児休業を付与される人が、残念ながら少なくなっているからです。雇用主側にも問題があると思いますが、私は、制度的な問題もあると見ています。
育児短時間勤務もそうです。基本的に正社員を支援する、正社員が利用するものになっています。となると、第1期と第2期は、実質的なターゲットが、夫婦とも正社員である共働き世帯でした。その人たちについては、明らかに子育てがしやすくなっています。私の夫婦もそうですが、保育園を利用することができ、育児休業を利用することができ、育児短時間勤務を利用することができ、雇用が続きます。
しかしながら、その人が全体に占める割合はどのくらいかというと、少し前までのデータでは、恐らく育児期の世帯の4分の1ぐらいです。これでは全体を支えることになっていませんでした。これが、第1期と第2期の課題であったと思います。
それから、第1期と第2期は、経済的な支援があまり拡充されていません。
第3期は、明らかに対象と幅を拡大してきています。私は、この方向だと思いますが、残念なことに、コロナが起こってしまった。ある対策をしてから出生率への効果があるまで、自治体ベースの分析をすると、大体5年から10年かかります。2年、3年、少なくとも翌年に出生率が回復することは、絶対あり得ないです。5年、10年のタイムスパンを考えたときに、第3期の影響は、2020年前後から現在、それから、今後、出るはずだと思います。しかしながら、そこにかなりの景気低迷とコロナ禍という不幸が重なってしまったのは、残念なことだと思います。
現在、岸田政権の方向性は、経済支援を拡充するというものです。さらに、全ての子供を支えるという方針になっており、第1期、第2期とは違います。実際できるのかという問題はありますが、方向性としては、幅広い人を応援する、かつ経済的にも応援する、これが大きな方向として出されていると思います。
では、我が国の少子化対策を、金額面、予算投入面から見たいと思います。
家族関係社会支出の対GDP比です。これは経済協力開発機構(OECD)が公表しているものです。つまり、その国のGDPのうちの何パーセントを子育て支援に投入しているかです。少し古いデータですが、これが2017年の頃です。現金給付0.65パーセント、これは児童手当などです。現物給付、育休や保育や幼児教育なども、これに関係します。0.93パーセントでした。それが、この間にかなり拡充されました。2020年時点で、それぞれ0.75パーセント、1.26パーセント、税制が0.2パーセントぐらいありますから、合計すると2.2パーセントぐらいになります。私が研究を始めた頃、1パーセントありませんでした。この間に、かなり拡充されてきました。これは、望ましいことだと思います。
では、主要国を見ましょう。イギリス、フランス、スウェーデン。3パーセントぐらいあります。あと1パーセントから1.5パーセントぐらいあると、日本の子育て支援、少子化対策が、かなり拡充されたものになると期待されます。
では、具体的な内容はどこかというと、現物給付、日本は1.26パーセントと言いました。実は、日本は、イギリスやフランス並みです。少しフランスに足りないかもしれませんが、この間に、かなり保育対策がされて、幼児教育の無償化も進めてきました。その結果、他の国に追いつきました。追いついていないのは、現金給付です。半分から3分の1ぐらいです。これは、国民の合意が取りにくいという問題はあるかと思いますが、これをどうするかが、我が国の現在の課題の一つであると認識しています。
ちなみに、税制も、ほかの国は利用しています。フランスなど、N分のN乗があり、イギリスも児童税額控除があります。日本のこれが扶養控除ですが、現在、検討されている児童手当の拡充は、あまり変わらない可能性があります。
もう少し話をすると、韓国の出生率は非常に低いです。最新時点で0.8ないはずです。これは、少子化対策の側からも問題点があります。表を見てもらうと、とても少ないです。現金給付0.15、ほぼやっていません。現物給付0.95で、日本並みにやっています。ただし、全体が低いという問題があります。
もう一つは、国民負担率です。当然ですが、ある程度、子育て支援にお金を投じている国は、国民負担率も高いです。日本は、それよりは低いです。ですから、これをどうするかが課題だと私は思います。
では、求められる少子化対策の方向性ですが、私が提案するものは、総域的な少子化対策です。
少子化対策を定義します。人々の結婚と子供を産み育てる希望を応援し、そこに至る阻害要因を取り除くことで、出生率の回復を目指す政策と定義します。これが、私の定義です。そして、個人と家庭の選択の自由を尊重した総域的アプローチを提案します。
具体的には、三つあります。
一つは、結婚前から子供の自立までの全ライフステージを支援することが必要ではないでしょうか。これは、できてきていると思います。もう国も自治体も、かなりやっています。
特定の家庭ではなく、全ての家庭の子育てを支援するようにしてはどうでしょうか。これは、実は、あまりできていません。さきほどの第1期、第2期ではないですが、正社員同士の共働き夫婦を支える子育て支援は、かなり拡充したと思いますが、それ以外の家庭を支える制度が弱いのではないでしょうか。
具体的な話を二つ挙げます。
一つは、ゼロから2歳を持つ在宅で子育をしている人の子育て支援が非常に手薄です。
二つ目は、育児休業です。非正規社員が育児休業相当のものを取れるかどうか。これは、非常に大きいと思います。
三つ目です。現物給付と現金給付、両面で支援することが大事ではないでしょうか。経済学者に聞くと、経済学者は、基本的に現物主義なので、現金は駄目だということですが、私は両方やっていいと思います。理由は、主要国がやっているからです。また、ダイレクトだからです。
ただし、現金給付は、なかなか国民の合意を得るのが難しいことも十分理解しています。その場合、全ての子育て世帯が必ずかかる費用を現物給付で与えていくと、これは実質的な現金給付に近い、準じるような効果を持つと見られます。
この総域的な少子化対策が有効な理由は三つあります。
一つ目は、日本女性の結婚、出産、就業のパターンは多様だからです。できるだけ幅広く支えてあげることが必要であると思います。
二つ目は、夫婦とも正社員の人と、正社員と非正社員の夫婦と専業主婦世帯とでは、必要な支援が少し違い、それを全体的にカバーしてあげることが必要であることです。
三つ目は、統計的に、幅広い施策を行っている自治体は、そうでない自治体に比べて出生率の回復の傾向がプラスであることです。
今の話は、あくまでもデータ分析の話ですので、具体的な自治体とはリンクしていません。少子化対策で話題に上がる自治体は幾つかあります。二つ挙げると、明石市、もう一つは、奈義町です。両方ともとても有名です。政府の資料などにも、たくさん出てきます。何を実施しているかというと、幅広い子育て世帯を支援しています。
明石市は、シティ・プロモーションがとても強力ですが、ホームページだけ見ると、すごい無料を打ち出しています。お金かかりませんということを出していますが、実際に政策を見ると、そればかりやっているわけではなくて、しっかり保育園もやっていて、さらに在宅子育て支援もやっていて、幅広くやっているのがポイントではないかと思います。
また、奈義町に関してもそのとおりです。
そして、データ分析とは少し違うところは、両方とも経済的負担を軽減する施策はやっています。ただし、留意点があります。それぞれの自治体の近隣、あるいは自治体に雇用の場があることです。
明石市は、隣に神戸市があり、賃金の高い働く場所があります。ベッドタウンとして子育て支援を充実させることで、移住も含めて人口が増えていきます。
奈義町には、自衛隊の駐屯地があり、その効果は無視できないと思います。
それを差し引いても、両自治体が行っている少子化対策は、データで分析されたものとかなり一致するものが多いです。
もう少し補足すると、どのように分析したかというと、日本の市町村にアンケートを行い、その市町村における、ある時点での少子化対策について、その後の出生率回復にどう影響したかを統計的に分析しています。
分析から、二つの知見が出ます。
一つの知見は、ある特定の施策をやったかやらないかによって、出生率は変わらないことです。例えば、保育を一生懸命やりました、他はやっていません。その場合、出生率は回復しません。同じことは、結婚支援もそうです。他にも、医療費の話も同じだと思います。
二つ目は、幅広くいろいろなことをやっている自治体は、あまりやっていない自治体よりも出生率の回復が明らかに有意にプラスです。
現物給付については、我が国は、ある程度の金額的、総額的な水準に来ています。そうなると、次の段階としては、まだ不十分な部分の現金給付を拡充していくことではないかと思います。もう一つ、既にある現物給付を効率的、効果的に使用していく段階に来たのではないかと思います。
現金給付については、欧州主要国よりも大幅に少ない。これが客観的な現状です。となると、これを拡充することが必要だと思います。
王道は児童手当だと思います。ただし、出産準備金ですとか、あるいは、高等教育費の負担軽減ですとか、これは経済的負担を軽減するのに準じる施策だと見ます。
もう一つは、税制による支援です。これは、自治体ベースではなく国全体の話になりますが、世代間の助け合いを維持していくには、今後避けられなくなっていく論点です。
少子化が進む現状は、子供を育てる人が、子育て費用を負担し、そして、今の世代は、上の世代を支えるための社会保障費や税を払っている流れになっています。当然、生まれた子供は、親の税や社会保障費を将来は背負うことになります。
しかし、もう一つあります。子供を産み育てなかった人の分も負担します。これでは、社会の持続は難しいと思います。
つまり、子供を産み育てない人も、子供を育てるための負担をある程度してもらえないかということです。税金か社会保険料ということです。そして、育った子供は、両者をもちろん支えていくことになるわけです。
もう一つ、忘れてはいけないのは、高齢者世代から孫世代、この流れです。これが財源の問題です。家族関係社会支出が多い国は、国民負担率も高いです。我が国もできる範囲で、国民負担率を引上げざるを得ない状況になりつつあると思います。
会派によって、スタンスが違うかもしれませんが、私としては、大きな借金を次世代にどんどんつけるような政策は良くないと思っているので、やはり今の世代の適切な負担を考える必要があると思います。
ただし、その際、何らか増税する際には二つの視点は必要です。高齢者も申し訳ないが、子育て支援のために負担してほしい。もう一つは、子育てする世代については、実際、子育てしている人については、経済的支援の拡充と増税の差を大きく純増にすることが必要ではないでしょうか。この分析は、子供を持つ女性が、もう一人子供を持ちたいという気持ち、これが何倍に変わるか、仮想的に分析したものです。1倍というのが今の基準だとしてください。児童手当が1.5倍や2倍に増えると、3倍ですとか11倍ですとか、つまり気持ちはそれだけ高まると思ってください。教育費の負担軽減は、さらにそれよりも効果があります。問題は何かというと、増税です。0.5パーセント消費税という条件で、増税は、明らかに出産を減らします。児童手当は1.5倍にして3.3倍、そして、子育て支援の増税が0.6倍だと、3.3倍掛ける0.6倍ですから2倍ぐらいになるわけです。増税したとしても、あるいは、社会保険料負担を増やしたとしても、それ以上に現物給付や、もしくは、現金給付として子育て支援をすることによって出産意欲をプラスにしていく、これが少子化対策と適正な負担の在り方ではないかと私は思います。
都市と地方の少子化について話します。これは、愛知県も関係します。
御存じのとおり、地方から東京圏への若年人口移動、これが問題です。転入超過率と合計特殊出生率、これを縦軸と横軸にして都道府県をプロットすると、こうなります。転入超過率がプラスになっている。そして、出生率が非常に低いのが東京です。たくさん若者が転出していて、そして、出生率は高いですが、転出している。これは長崎などです。
愛知県はどこになるかというと、とてもいいポジションにいます。何かというと、転入超過率、ややプラスです。コロナ前のものですが、ややプラス、そして、出生率の水準は、いわゆる首都圏よりもはるかに高いです。最近、愛知県は、下がってきていますが、まだまだ高い方です。こうなると、愛知県のポジションとしては、どこを目指すかというと、右に行ければよいですが、右よりは上に行ってもらいたいです。間違っても、左には行ってはいけないと思います。
では、愛知県の市町村別の出生率を色分けするとどうなるかというと、この図です。これは、私が共同研究したもので、2015年前後と少し古い値になりますが、暖色の高い、強いところが出生率が高いと思ってください。これが名古屋市です。これが豊田市です。
愛知県の特徴は何かというと、名古屋市と豊田市の間が出生率が高いです。幾つかの自治体のヒアリングなども踏まえると、こう解釈できます。愛知県は、名古屋市と豊田市という二つの経済エンジンがあります。つまり、そこに勤めに行くわけです。また、関連企業もあります。そして、ベッドタウンにもなるわけです。それゆえに出生率が比較的高くなります。
愛知県の特徴として、強い産業と良質な雇用の場がある。これが愛知県の強さで、出生率を上げているのだと思います。
また、住宅コストが安いです。そして、親族の育児支援が意外と強いことも、愛知の特徴かと思います。
それから、自治体のヒアリングをして、見えてきたものは、着実に幅広い子育て支援を各自治体はやっています。しかし、愛知県の中で、突出して子育て支援をしている自治体は、全国規模に通じる名前があまりない気がしますが、調べてみると、愛知県の自治体は、やっています。つまり、幅広く子育て支援をしているのではないかと思います。
ちなみに、雇用と出生率の関係は、我々が調べた熊本県についても同じような結果を得ています。熊本県の出生率は、愛知県よりもはるかに高いです。人口も大きいです。九州の中では、比較的大きな自治体です。
ここが熊本市です。どこが出生率の高い自治体かというと、熊本市に隣接するこの辺りです。菊陽町や合志市という自治体で、TSMCという巨大な半導体工場ができるところです。ここは、長い時間をかけて、工業団地を整備し、この半導体工場が来る前から、かなりの工場を誘致してきました。このことにより、雇用の場が生まれ、若い世代が移り住むことができ、出生率が比較的高いという事例です。
出生率回復のために幾つかの自治体を見ていくと、恐らくは二つ必要だと見ています。それは、狭い意味での少子化対策と広い意味での少子化対策です。
狭い意味での少子化対策は、この参考資料の前までに話しているものを指しています。いわゆる結婚、妊娠、出産、子育て支援というものです。これについては、全ての子育て世代を支えていくために、幅広くやることが大事だと思います。
一方、広義の少子化対策が、いわゆる地方創生で言われてきたものです。地元に雇用の場をつくる、産業を活性化させる、Uターンをさせる、こういうことです。これが大事です。ただし、広義の少子化対策は、勝手に人が転入する自治体は必要としません。例えば東京などです。それから、大都市のベッドタウンは必要ありません。そもそも、大都市がこれをやってくれるからです。愛知県については、名古屋市は、あまり関係ないですが、幾つかの自治体に関しては、ある程度、関係してくると見ています。
ここまでで私の話とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。
(主な質疑)
【委員】
多く子供を産む家庭をしっかり支援していくことは、私も気がつかなかったところである。
個人の自由と社会の課題について、これらを混同していくことは、やはり行政として、政治としてあまり良くないということも感じた。
現在、国は、子供の未来戦略を打ち出し、4月からは、こども家庭庁が動き始めた。そこでどのような方向性を出していくのか、また、子ども・子育て、幼児教育に関する予算をどれくらい確保するのか、今後、しっかりと打ち出されると思う。
幼児教育の無償化について、私自身、非常に大きく進めていく必要があると感じている。ただし、子育てに関しては、県が直接関わることが少ない。国から直接、基礎自治体に対して行う施策、または中間の都道府県を通して支援をすることはあるが、やはり、基本的には、子育てに関わる費用は国で負担していくことが本来ではないか。これが、20年、30年先を考えたときに、今ここで、国はしっかりとした方向性を持って決断するべきではないか。
全体の支援は、松田参考人の言うとおりであり、考え方が少し強く、反対する人もいるかもしれないが、今後、20年、30年、40年、50年先の日本をつくり出していくためには、増税など、今こそ大きく踏み出していかなければならないと思っているが、松田参考人は、どのような考えがあるのか。
【参考人】
確認であるが、幼児教育の無償化については、今後、子育てや教育に係る費用負担を軽減していく方向性がなされている。
また、国が予算を負担すべきではないかという質問の趣旨は、こう理解してよいか。つまり、幼児教育無償化、これは全国一律のもので、本来であれば国が全ての費用を負担するのが筋ではないか。しかしながら、実際のところは、自治体からも幾つか負担があることに問題があるのではないかという質問と理解してよいか。
そうだとすると、私が先ほど言ったとおり、例えば、幼児教育無償化については、これは全国どこにでも発生するものであることから、国全体でやるものではないかと思う。しかしながら、現状がどのような政治的な経緯でこうなっているかというのは私には分からない。
【委員】
将来的に、2050年に人口が1億人を切り、9,000万人を切っていく。それはそれで、国として持続できるようであれば、良いと思う。ただし、なかなか難しいのではないか。だから、ここで少子化対策を行う必要がある。もちろん、少子・高齢化対策全体を取り組む中で、高齢化対策はもちろん必要であるが、少子化対策に重点を置いた方が我が国を維持するのに必要ではないかという報道が非常に多くなってきた。そう考えると、やはり、30年、40年先に、しっかり子供たちを産み育てて、かかる費用は社会全体で全部負担をしていく方向に行くのではないかという意味で、社会全体でしっかりと負担していかないと、将来、日本という国を持続するためにも、今ここで大きくその方向性に踏み出していく必要があるのではないか。
【参考人】
そのとおりである。少子化対策は、この国やこの社会を持続するために必要だと思う。それは、人口的に持続しなければ、社会保障も含め、全ての社会制度が崩れてしまう。そう考えたときに、次世代を育てていく費用をできるだけ子どもを育てている親だけの負担ではなく、社会的に負担していく方向性が必要だと思う。
【委員】
県内の各自治体でも、それぞれ子育て支援の施策はやっていると思うが、子育て世帯の人からは、将来が不安で子供をなかなか持つことができない、高齢化していくのに先行きが不安だ、今の日本は不安だということをよく聞く。そこで、不安の正体というのは、何が要因だと考えるか。
【参考人】
非常に難しい質問である。
まず、将来が不安だから子供を持ちたくないという気持ちは、非常によく分かる。過去の私の研究であるが、リーマンショックが起こり、経済の先行きが不透明となった。その時は、結婚や出産意欲は落ちた。そのような状況の中で、子供を産み育てるというところに気持ちが向かなくなるのは、そのとおりだと思う。
不安の正体については、私の守備範囲ではない。少子化対策に関して、しっかりと結婚や出産ができる制度を整えていく、あるいは、雇用環境を整えていくことは、最低限のその不安に対する回答になるのではないかと思う。
【委員】
今回のテーマにはなかったが、総域的な少子化対策ということで育児休暇について伺う。
少子化問題の中で、様々な統計を見せてもらったが、夫の出生意欲の低下ということが一つ大きく理由に挙げられていたと思う。
何年か前に読んだ本なので正式な題名を覚えてはいないが、本の中では、少子化政策をする上で、そもそも育児休暇の在り方を考えなければいけないという書き出しがあった。
理由としては、フランスでは、まず育児休暇を企業が強制的に取らせると書かれていた。この目的の一つとしては、夫婦で子供を育てるという考え方を醸成していくことだと書かれていた。
私も2人の子供がいるが、仕事で出産も立ち会えず、子育てというと、どうしても母親の仕事ではないかという固定概念があったが、フランスの場合は、もともと夜泣きやおむつを交換する際は、母親だけではなく、父親も積極的に参加することによって、2人の大切な子供を育てていくという気持ちを醸成する上で、育児休暇の取り方は、非常に重要だということから、本は始まっていた。
政策に関しては、全てそのような考え方が根底にあるからこそ、フランスの子育て政策は、パズルのようにうまく組み合わされていて、その結果、出生率が高いのではないかと納得できた部分があった。
何を聞きたいかというと、基本的には、男性も育児に参加をさせるという感覚を持つことで、父親の出生意欲が低下しないのではないかという思いがあり、子育て、少子化対策を考えていく上で、育児休暇の取り方を考えていくだけで、ある程度は改善できるのではないかと思うが、育児休暇の考え方について伺う。
【参考人】
二点ほど回答したい。一点目は、育児休業について、どのような取組、方向性が望ましいかという話、二点目は、フランスの少子化対策について、私が押さえている範囲から回答したい。
一つ目の育児休業については、まず育児休業を希望する人がしっかり取ることができるようにすることが基本的に大事なことだと思う。その際、長期の休業を取得したい夫婦、個人については、それがかなえられるようにしていくべきである。それに対して、短期間しか取れないが、それでも取りたい人についても、それをかなえるようにしたものが、最近の拡充された、さんきゅうパパ制度というものである。
必要なのは、様々な働き方があるので、それぞれの状況や家庭の経済状況に合わせて、長期の休業を選択する人から短期の休業を選択する人まで、幾つかのバリエーションを持たせて、どれかを取得できるようにしていくことが必要ではないかと思う。
逆に言うと、全ての人が休業を1年間取るのが理想かというと、それぞれの家庭や仕事の事情もあるので、私は違うと思う。
ちなみに、この育児休業と出生の関係は、実は日本では明確になっていない。私もいろいろと調べたが、統計的に分析することが難しい面がある。これは、研究者としてのこれからの課題かと思う。
二つ目のフランスの少子化対策について、私が押さえているフランスの特徴として、二点話す。
一点目は、圧倒的な経済支援である。これは欧州主要国の中で、はるかに早い段階から経済支援を拡充し、今に至っている。
二つ目が、フランスは、基本的にどのような選択をしても支援がある。例えば、就業自由選択補足手当といった手当である。つまり、育児休業を取ることもできれば、休んでいるときに、その分の経済的な支援がされるなど、幾つかの選択肢があるということである。幅広い人を、その選択に応じて支援するというものだと思う。
( 委 員 会 )
日 時 令和5年7月18日(火) 午後1時~
会 場 第8委員会室
出 席 者
犬飼明佳、日高 章 正副委員長
久保田浩文、ますだ裕二、林 文夫、浦野隼次、伊藤貴治、高橋正子、
天野正基、江原史朗、藤原 聖、神谷まさひろ、各委員
松田 茂樹 参考人(中京大学 現代社会学部 教授)
福祉局長、福祉部長、子ども家庭推進監、関係各課長等
委員会審査風景
<議 題>
我が国における少子化対策・子育て支援施策の概略と課題について
<会議の概要>
1 開 会
2 委員長あいさつ
3 議題について参考人からの意見聴取
4 質 疑
5 閉 会
《参考人の意見陳述》
【参考人】
ただいま御紹介にあずかりました中京大学の松田です。
私は、少子化について、また、少子化対策について社会学の立場から研究している者です。この立場から、今、日本の少子化が何によって起きているのか、そして、解決するにはどのような方向性が必要かを話したいと思います。
具体的な内容に入る前に、私の強みと弱みをさきに話します。
強みについては、この少子化の問題を、日本の全体像を、鳥の目から全体を捉える。また、データ的な裏づけをしていく、これは、私がかなり強いところだと思います。
一方、弱みについては、個別具体的な事例に疎いところがあります。特に、市町村や県庁の方と話をすると、何かよい先進事例はないかという質問をよくもらいますが、そのようなところが非常に弱いので、逆に皆様から勉強させていただければと思います。
本日は、政府の関係府省庁会議の資料をベースにしています。
総域的な少子化対策を推進というのが今日のテーマです。総域的な少子化対策とは、私の著書からになります。つまり、幅広くやっていくことが必要ではないかという問いかけです。内容は、2021年に書きました拙著からになります。以降の資料には、できるだけデータの出所などを書いていますが、書いていないものについては、この本の中からと理解してほしいです。
では、早速ですが、日本の出生率の推移と特徴について話したいと思います。
まず、我が国の出生率と出生数の推移です。
我が国の出生率は、なかなか回復基調に乗らず、ずっと少子化が続いています。
人口学の視点から見て、1970年代半ばからずっと続いている出生率の下落を少子化と呼んでいます。つまり、我が国は、かなり長い時間をかけて少子化が進んでいることが分かります。
実際に少子化が社会問題化したのは、1990年の1.57ショック以降ですが、そこから少子化現象が始まったわけではなく、もう少し長いスパンで起きています。それゆえに、この出生率を低迷させてきた要因は、いろいろなものがあります。
そして、コロナ禍で出生率は一段と低下しました。コロナウイルスそのものが原因ではなく、それに伴う景気低迷や行動制限です。未知のウイルスに対応するためには、行動制限はやむを得なかったと思いますが、その副作用として、出生率や出生行動に関しては、かなり低迷することになりました。
現在の出生率の水準では、国や社会の持続は非常に厳しいので、出生率を回復基調に戻すことが必要です。
なお、出生率、出生数、将来人口については、どれか一つが決まれば、他が決まりますので、出生率を回復させることは、長期的な目標として、出生数や将来人口の下落も止めていくイメージを持っていると理解してほしいです。
出生率の下落要因について、人口学的には、未婚の影響、結婚した後の夫婦の子供数の影響と二つに分解ができます。それぞれ見ると、基本的には未婚化による影響がかなり大きいことが、社会学者も含めて、人口学者の間では共通認識を持っています。ただし、出生率下落の90パーセントは未婚化の影響であるという論文がありますが、それは少し推計が大き過ぎます。
ここで理解すべきことは、未婚化の影響は大きいが、それに加えて、夫婦が希望するだけ子供を持てなくなってきている状況も無視ができないほど影響があり、この両方を見ることが必要だということです。
コロナ前の状況で、若干数値が古いですが、アジア、特に東アジア、それから、南欧、西欧、北欧、北米と、主要国の合計特殊出生率の水準を持ってきました。
何を言いたいかというと、ほぼ全ての国が少子化ということです。少子化は、出生率の水準が約2を下回り、長期的に低迷することですが、2を上回っている国はないです。ただ、健闘している国はあります。
また、北欧は、出生率が高いというイメージがありますが、よく見ると、そうでもないです。フィンランドなどは、ほとんど日本と変わりません。
つまり、それぞれの地域に出生率が比較的高い国があり、一方で、低い国もあります。
この中で、東アジアが最も出生率が低迷している地域です。これが非常に問題です。
ただし、この中で見ると、日本は、かなり健闘していることが分かります。
我が国の出生率、当時1.33、現在は1.26ですが、韓国、台湾、香港、シンガポールなどは、非常に低いです。ちなみに、中国は1.2ぐらいだと推計されています。それらの国の方と話をすると、日本は何でそんなに出生率が高いのだと質問されます。これについては、我が国がこれまで少子化対策をある程度やってきたことが影響していると私は見ています。
日本の出生率が東アジアの中で比較的高い理由は何かというと、日本の女性の出産、学歴、就業のパターンがある程度多様だからという研究があります。これは、私の副指導教授だった方で、慶應大学の名誉教授の津谷典子先生の研究です。
具体的には、日本の有配偶女性における第一子、第二子、第三子の出生率が、他の国よりも下がっていません。この理由として、就業や出産のパターンがある程度、多様であるからではないかという分析があります。
出生順位別の合計特殊出生率の推移を御覧ください。
上が第一子、真ん中が第二子で、下が第三子です。長期的には、第一子が下がっていることが分かります。これが出生率を低迷させています。ただし、注目してほしいのは、第三子です。過去10年ほどの推移では、あまり下がっていません。第三子は、全体に占める割合は非常に少ないですが、一定割合ずっと続いていることが日本の出生率の水準をここまで維持しています。中国や韓国、東アジアほど下がっていません。
では、以上を参考にして、出生率を回復させるための少子化対策に求められる視点の話をします。
まず、少子化の社会に与える負の影響について、押さえたいと思います。少子化は、社会にとって良いものだという議論が世の中にあることは承知していますが、恐らくうそだろうというのは私の意見です。瞬間的にはそうかもしれないですが、中長期的に見ると、明らかに少子化は、国の国力を奪い、社会保障基盤を悪くし、国民の生活を貧しくします。ですから、少子化は悪いと思います。
その上で、少子化の悪い影響を止めるにはどうしたら良いかというと、これは根本的な要因である少子化を止めるしかありません。先ほど、少子化の流れを変えるという話が委員長からありましたが、それしかないと私は思います。ただし、時間はかかります。
また、政府や自治体が少子化対策をしていく中で、個人の選択に関わっていく部分があり、大きく分けて二つの議論があります。
一つは、個人の自由という議論があります。結婚や出産は個人の自由ですから、そこに関わるべきではない、介入すべきではない。これは大事なことだと思います。
そこで忘れていることは、長期的には、社会が存続し得なくなってきています。その下で、個人の自由をどこまで維持できるかという問題に応えられていないと思います。
一方、社会全体のためだから、結婚、出産をどんどん促すべきという社会的・理論的な立場があります。ただし、やはり危険なところもあって、個人の自由な選択、自由な行動を阻害しかねないというところです。
私が提案するのは、両者をうまいところで調和できないだろうかということです。
現在、政府は、希望出生率1.8を掲げています。近い将来の達成は難しくなってきていますが、ただ、中長期的には目指すべきものだと私は思います。そうしなければ少子化は止まらないからです。そのときに、大きくは二つの、どちらを目指しますかということがあると思います。
左側は、横軸に結婚する人の割合を取ります。100パーセントだと、全員結婚すれば100パーセントという意味です。縦軸に、結婚した夫婦の子供数を取ります。全員が結婚して、そして、全夫婦が2人子供をもうけると、出生率2.0になります。100パーセント、1です。1掛ける2.0ですから2.0になります。これが、合計特殊出生率が回復したときの面積です。
極端な話をすると、全員が結婚し、全員が子供を2人産むような社会に持っていくことができれば、出生率は回復します。
高度経済成長を終えた頃の日本がこれに近く、当時は皆婚社会で、全ての人が結婚していました。夫婦の多くが2人子供を産む、二人っ子化とも言われました。ただし、方向性としては、これではないと思います。
結婚したくない人は結婚しない、子供をもうけたくない人はもうけないという選択がある上で、出生率2.0を回復するにはどうしたら良いかというと、多く子供をもうける家庭が一定割合いないといけません。これで全体が2.0になります。このような社会が、結婚や出生のパターンが多様な社会だと思います。また、選択の自由が残されています。
では、そうするためには少子化対策は何が必要かというのが次です。
大きく三つの視点が必要であると思います。これは、国全体で見たときの話です。
その前に申し上げると、若い世代で、主体的に結婚や出産を希望しない方がいます。その方は、その選択が応援されるべきです。
ただし、当然ながら、そこで出生数は下がります。しかしながら、そこで減る出生数、出生率以上に、社会的・経済的に応援されて、希望するだけの数を持てる夫婦がいます。それが全体としての出生数を回復させていく。これが、少子化対策の大きな方向性ではないかというのが提案です。社会人口を持続させながら、個人の結婚や出生における自由な選択を維持できる自由な社会の姿だと思います。
三つの要素について説明しますが、皆様の自治体にも関係します。
一つ目は、横軸です。希望する人が1人でも多く結婚できるようにしていく、これは必要です。これが、最も出生率に効果があります。これは異論がないと思います。
二つ目は、縦軸です。これは異論があるかもしれませんが、希望する家庭全てが希望する数の子供を持てるようにしていくことです。
従来の対策と私の視点は違いますが、この場合、家族の就業等の状態にかかわらず、応援されるべきではないでしょうか。つまり、共働きであろうが片働きであろうが、もちろん独り親世帯であろうが、しっかり応援されていくことが必要ではないかと思います。また、特に、多子世帯への支援が必要になります。多子世帯は、子供3人以上の世帯と定義します。理由は、一定割合、多子世帯がいないと、出生率は回復しないからです。
三つ目は、主体的に結婚、出産を選択しない方がいるということです。その選択は、応援されるべきです。しかしながら、その方には、できれば子供を産み育てる人を応援する側に回ってほしいというのが私の意見です。これがないと、主体的に結婚、出産をしないことが私の自由ですという方が、結婚、出産をして一生懸命次世代を育てている方にフリーライドしてしまう構造になってしまいます。これは少し良くないと思います。
日本の出生率を低迷させる要因について、私のオリジナルの議論があります。
これまで少子化対策について長年研究してきました。先行研究もかなりの数を読んできました。自分でも分析しています。結論を言いますと、出生率を低迷させている要因は、たくさんあるというのが、この国の現状だと思います。
何を申し上げたいかというと、原因をシングルイシューに求めるべきではないということです。何か一つの要因を解決すると、どんどん出生率が回復していくような未来は、少なくともないと思います。
具体的な要因は何かというと、ここに書いたものが主な要因です。これは私の分析だけではなくて、社会学者や人口学者、経済学者含めて、たくさんの方が分析してきたものです。多くのことは皆様も御存じだと思います。そこを確認するとともに、実は通説と違うものがあります。それも、今日、話したいと思います。
一つ目として、未婚化を進める要因があります。理由は何かというと、つまり未婚化の進行というものが出生率を下げている大きな要因ですから、結婚を難しくしている要因というのがやはりインパクトが大きいわけです。基本的な押さえるべきことは、若者の多くは結婚したいと考えています。多くの調査で、8割から9割の若者は、いずれ結婚したいと考えているが、結婚ができない、あるいは、遅くなってしまう。そうした状況にあることです。
何が理由かというと、大きくは三つだと思います。
一つ目は、経済的な問題です。明らかに経済基盤の弱い若者は、結婚への移行が遅いです。あるいはできない。ヨーロッパと比較すると、日本はその傾向が顕著です。
二つ目は、出会いの機会の不足です。これも多くの調査で出るものです。適当な相手に巡り会わない。これは未婚の男性も女性も多くの人が挙げるところです。
三つ目は、私自身が分析すると、仕事を重視する方は、結婚するタイミングが明らかに遅いです。家庭生活を重視する方は、結婚するタイミングが早いです。性別役割分業を支持しない方は、結婚するタイミングが遅いことになります。ただし、これは、いずれも主体的な理由で、本人の望む価値観です。
次に、夫婦の子供数を抑制している理由です。最大の理由は、子育てや教育にかかる経済的な負担の重さです。これは多くの調査で出ています。特に、第三子以降のところ、第一子、第二子は頑張れても、第三子以降で、この経済的負担を考え、やめようと断念するような結果になっています。
次が、晩婚、晩産からくる不妊の問題です。未婚化の結果、この晩婚、晩産になり、不妊の確率が上がっています。
また、3番目に子育て自体の負担が大変になっています。周りの親族や地域の支援は少なくなり、地元地域で子育て仲間が楽しく子育てをする、そうした関係も築きにくくなっていると、そのような背景もあります。
四つ目に、仕事と子育ての両立を挙げておきました。
この両立の問題、やはり大きいと思います。
ただし、通説と異なる点を申し上げます。それは、通説では、正社員の女性、特に、仕事一筋の女性において、やはり機会費用が高く、仕事も大変ですから、どうしても子供を持ちにくい。これは正しいです。そのような結果が出ます。
ただし、通説と違うところ、プラスアルファがあります。それは、非正規雇用で働く女性です。彼女たちも子供を持ちにくい。それは、実は、キャリア女性と同じ程度です。そこについて、少し対策として抜け落ちている可能性があります。
通説と違うことを言います。政府の会議でも言って、ポジティブなのかネガティブなのか、すごい反響がありました。夫の労働時間が短いと、実は出生が起こりにくいです。通説は、逆です。私も通説どおりだと思っていましたが、後ほどのデータでもお示しする三つのデータで同じ結果が出ます。これは悩ましいところです。長時間労働は是正されるべきだと思います。しかしながら、過度に是正すると、出生にマイナスの影響を与えかねない。つまり、子育て世帯の所得を下げるのだと思います。
最後は、個人の価値観です。
三つ目のブロックの話は、省略しますが、何かというと、進学や就職による地方から都市、特に若者の東京への移動です。そうすると、全国的に出生率が低迷してしまいます。
ちなみに、今の話、もう少し構造化すると、これは、日本だけではなくて、東アジア諸国で少子化がかなり進んでいると申し上げました。それに共通するフレームではないかと考えています。
理由は、出生率の低下、少子化というものが未婚化によってかなり影響されるということです。これは、欧米にはありません。特にヨーロッパではないです。なぜかというと、婚外子が多いからです。
そうなると、日本と東アジアの少子化の背景要因を知るためには、少子化の要因そのものだけではなくて、未婚化の要因も見る必要があります。これは、先ほどのスライドと同じです。
では、何が主な要因かというと、一つではないと思います。さっきと同じで、雇用の問題、教育の問題、両立の問題、価値観の問題、幾つかのものが関係していると思いますが、最低四つだと見ています。
それは何かというと、世界共通の背景として、グローバル化と市場経済化というものがあります。そして、日本を含むアジア諸国に共通の要因として、圧縮近代というのがあります。欧米が長い期間かけて近代化したもの、発展したものを、日本を含むアジアは、急速に短い期間で達成しました。しかし、そのゆがみがいろいろなところに来てしまっています。
あとは、労働市場の問題もあります。
主な背景要因のバックデータを説明します。
一つ目は、未婚化の背景要因として、この左の図は何かといいますと、未婚の男性の職業と結婚しやすさの関係だと思ってください。青いところが正社員で300万円以上の人を基準とします。1倍としたときに、正社員だけれども年収が300万円未満の若者は、このオッズ比、倍率に直して半分ぐらいになります。さらに、非正社員だと、オッズ比はもっと下がって30パーセントぐらいになります。そして、無職ですと、さらに下がります。
女性については、男性ほど明瞭ではないですが、非正社員の女性は明らかに結婚が遅い、難しいというのは分かります。無職の女性もそうです。
次に、日本の出生率が、ある程度の水準に維持している理由として、出産や就業のパターンが、ある程度多様だと申し上げました。
これは、2019年の全国家族調査で、末子がゼロから6歳を取ります。これは、妻の就業形態です。大体、正社員、非正社員、無職が3分の1ぐらいずついます。無職、専業主婦世帯は、3分の1より少しいますが、3分の1と言います。そうしますと、ある程度、いろいろな人がいます。
そうなると、いろいろな立場の方を応援していくことが大事ではないかと思います。
これが夫婦の出生力低下の背景です。理想の子供数を持てない最大の理由は、子育てや教育にお金がかかり過ぎるからです。特に本人年齢が35歳未満が多いです。したがって、経済支援、特に若い世代をどうするか、これが課題かと思います。
なぜ経済的な理由が上位にあるのかというと、児童のいる世帯の平均所得の推移ですが、過去、あまり上がっていない、むしろ下がっています。これは児童のいる世帯だけではなく、世界に比べて、若い世代の賃金があまり上がっていない。
ちなみに、徐々にですが、上がっている世帯は、高齢者世帯です。
そして、児童のいる世帯はどうなるかというと、年齢層別に見たときに、児童がいるということは、恐らく多くの場合、夫婦と子供がいます。その世帯の1人当たりの所得水準に直すと、すごい低いです。これでは、子供を産み育てると余計苦しくなっている。だから、経済的な理由で子供をもうけられない、もうけたくない、これは合理的な判断であると思います。
次は、就業です。
これが夫と妻の出生意欲の低下で、後ほど見てください。
ちなみに、最近低下しているのが夫のほうです。長期的に、過去15年ぐらいですか、夫のほうの子供をもうけたいという意欲が下がっています。
父親の労働時間の話があります。父親の育児頻度が高いこと、これは子育てでは大事です。具体的には、母親の育児負担や育児不安を明らかに軽減します。
ただし、一般的な家庭で、正社員の男性の父親の労働時間の長さは、育児頻度の長さとトレードオフの関係にあります。当たり前ですが、労働時間が長くなれば家庭に帰る時間が少なくなるので、子供との関わりが少なくなります。そして、その労働時間の長さ、実はある程度長いことが夫婦の出産を促す要因になっています。そして、雇用の安定にもつながっているという現実があります。そう考えると、最後、どうするかという落としどころが、少し悩ましいところです。
なお、父親の育児頻度が増えると追加出産が促されるかで、ダイレクトにはそうではないようです。これは、ほかの先生が統計的に分析しています。ただし、母親の育児不安を軽減しますから、それを経由しての間接効果があると私は思います。
では、これまでの少子化対策について、我が国が何をしてきたのか。我が国は、どのような少子化対策をしてきたのか。
この表は、私が整理したものです。
我が国の少子化対策を、過去3期に区切りたいと思います。
1期目、これは、1990年代です。エンゼルプランがつくられ、それから、緊急保育対策等5か年事業などが始まりました。
最初、この第1期の特徴は、保育対策中心に行われたことです。当時、最も問題であったと認識されたのかと思います。
そして、第2期です。その後、2000年代から2010年代半ば、安倍政権になる前ぐらいまでのイメージです。保育と両立支援を両輪として少子化対策が行われてきました。代表的な例としまして、次世代育成支援対策推進法は、この典型的なものだと思います。
そして、第3期、2010年代半ば以降ですが、明らかに対策の幅を拡大しています。結婚支援が入り、地方創生が入り、幼児教育の無償化が始まり、不妊治療助成が始まるなどです。不妊治療の保険適用が始まります。これを見ると、明らかに対策の幅は広がってきています。
ちなみに、第1期が保育中心で、第2期が保育と両立支援を両輪としてという話は、当時の少子化対策の白書にそのまま書いてあります。
では、このような少子化対策がどのくらい効果があったかという議論です。厳密な分析というのは、私も含めてこの分野の人間、研究者もできていないところです。それだけ簡単には対策の効果を分析し切れないというのが、この分野だと思います。
ただし、明らかなことは、少なくとも第1期と第2期の出生率は回復しなかったということです。
第1期と第2期、保育と両立支援を両輪として、大事な政策であったと思います。
よく考えてみると、これらは、全体を対象にしていません。保育園を利用している人は、基本的に夫婦ともに就業している人です。少し前までは、非正規の妻パート世帯の人は、なかなか保育園、特に低年齢児は預けにくかったという現状もあります。加えて、両立支援といったときに、例えば、育児短時間勤務、育児休業制度などを思い浮かべると思います。誰が利用できるかと考えると、ほぼ正社員です。育児休業は、法律上は正社員であっても非正社員であっても取ることが可能です。しかしながら、現実問題として、制度的に取れるのは正社員です。なぜかというと、非正社員は、育児休業を取るまでに1年以上働いており、さらに育児休業を取った後に働き続ける雇用が続くという見込みがあるという前提を満たすと雇用主から認められて育児休業を付与される人が、残念ながら少なくなっているからです。雇用主側にも問題があると思いますが、私は、制度的な問題もあると見ています。
育児短時間勤務もそうです。基本的に正社員を支援する、正社員が利用するものになっています。となると、第1期と第2期は、実質的なターゲットが、夫婦とも正社員である共働き世帯でした。その人たちについては、明らかに子育てがしやすくなっています。私の夫婦もそうですが、保育園を利用することができ、育児休業を利用することができ、育児短時間勤務を利用することができ、雇用が続きます。
しかしながら、その人が全体に占める割合はどのくらいかというと、少し前までのデータでは、恐らく育児期の世帯の4分の1ぐらいです。これでは全体を支えることになっていませんでした。これが、第1期と第2期の課題であったと思います。
それから、第1期と第2期は、経済的な支援があまり拡充されていません。
第3期は、明らかに対象と幅を拡大してきています。私は、この方向だと思いますが、残念なことに、コロナが起こってしまった。ある対策をしてから出生率への効果があるまで、自治体ベースの分析をすると、大体5年から10年かかります。2年、3年、少なくとも翌年に出生率が回復することは、絶対あり得ないです。5年、10年のタイムスパンを考えたときに、第3期の影響は、2020年前後から現在、それから、今後、出るはずだと思います。しかしながら、そこにかなりの景気低迷とコロナ禍という不幸が重なってしまったのは、残念なことだと思います。
現在、岸田政権の方向性は、経済支援を拡充するというものです。さらに、全ての子供を支えるという方針になっており、第1期、第2期とは違います。実際できるのかという問題はありますが、方向性としては、幅広い人を応援する、かつ経済的にも応援する、これが大きな方向として出されていると思います。
では、我が国の少子化対策を、金額面、予算投入面から見たいと思います。
家族関係社会支出の対GDP比です。これは経済協力開発機構(OECD)が公表しているものです。つまり、その国のGDPのうちの何パーセントを子育て支援に投入しているかです。少し古いデータですが、これが2017年の頃です。現金給付0.65パーセント、これは児童手当などです。現物給付、育休や保育や幼児教育なども、これに関係します。0.93パーセントでした。それが、この間にかなり拡充されました。2020年時点で、それぞれ0.75パーセント、1.26パーセント、税制が0.2パーセントぐらいありますから、合計すると2.2パーセントぐらいになります。私が研究を始めた頃、1パーセントありませんでした。この間に、かなり拡充されてきました。これは、望ましいことだと思います。
では、主要国を見ましょう。イギリス、フランス、スウェーデン。3パーセントぐらいあります。あと1パーセントから1.5パーセントぐらいあると、日本の子育て支援、少子化対策が、かなり拡充されたものになると期待されます。
では、具体的な内容はどこかというと、現物給付、日本は1.26パーセントと言いました。実は、日本は、イギリスやフランス並みです。少しフランスに足りないかもしれませんが、この間に、かなり保育対策がされて、幼児教育の無償化も進めてきました。その結果、他の国に追いつきました。追いついていないのは、現金給付です。半分から3分の1ぐらいです。これは、国民の合意が取りにくいという問題はあるかと思いますが、これをどうするかが、我が国の現在の課題の一つであると認識しています。
ちなみに、税制も、ほかの国は利用しています。フランスなど、N分のN乗があり、イギリスも児童税額控除があります。日本のこれが扶養控除ですが、現在、検討されている児童手当の拡充は、あまり変わらない可能性があります。
もう少し話をすると、韓国の出生率は非常に低いです。最新時点で0.8ないはずです。これは、少子化対策の側からも問題点があります。表を見てもらうと、とても少ないです。現金給付0.15、ほぼやっていません。現物給付0.95で、日本並みにやっています。ただし、全体が低いという問題があります。
もう一つは、国民負担率です。当然ですが、ある程度、子育て支援にお金を投じている国は、国民負担率も高いです。日本は、それよりは低いです。ですから、これをどうするかが課題だと私は思います。
では、求められる少子化対策の方向性ですが、私が提案するものは、総域的な少子化対策です。
少子化対策を定義します。人々の結婚と子供を産み育てる希望を応援し、そこに至る阻害要因を取り除くことで、出生率の回復を目指す政策と定義します。これが、私の定義です。そして、個人と家庭の選択の自由を尊重した総域的アプローチを提案します。
具体的には、三つあります。
一つは、結婚前から子供の自立までの全ライフステージを支援することが必要ではないでしょうか。これは、できてきていると思います。もう国も自治体も、かなりやっています。
特定の家庭ではなく、全ての家庭の子育てを支援するようにしてはどうでしょうか。これは、実は、あまりできていません。さきほどの第1期、第2期ではないですが、正社員同士の共働き夫婦を支える子育て支援は、かなり拡充したと思いますが、それ以外の家庭を支える制度が弱いのではないでしょうか。
具体的な話を二つ挙げます。
一つは、ゼロから2歳を持つ在宅で子育をしている人の子育て支援が非常に手薄です。
二つ目は、育児休業です。非正規社員が育児休業相当のものを取れるかどうか。これは、非常に大きいと思います。
三つ目です。現物給付と現金給付、両面で支援することが大事ではないでしょうか。経済学者に聞くと、経済学者は、基本的に現物主義なので、現金は駄目だということですが、私は両方やっていいと思います。理由は、主要国がやっているからです。また、ダイレクトだからです。
ただし、現金給付は、なかなか国民の合意を得るのが難しいことも十分理解しています。その場合、全ての子育て世帯が必ずかかる費用を現物給付で与えていくと、これは実質的な現金給付に近い、準じるような効果を持つと見られます。
この総域的な少子化対策が有効な理由は三つあります。
一つ目は、日本女性の結婚、出産、就業のパターンは多様だからです。できるだけ幅広く支えてあげることが必要であると思います。
二つ目は、夫婦とも正社員の人と、正社員と非正社員の夫婦と専業主婦世帯とでは、必要な支援が少し違い、それを全体的にカバーしてあげることが必要であることです。
三つ目は、統計的に、幅広い施策を行っている自治体は、そうでない自治体に比べて出生率の回復の傾向がプラスであることです。
今の話は、あくまでもデータ分析の話ですので、具体的な自治体とはリンクしていません。少子化対策で話題に上がる自治体は幾つかあります。二つ挙げると、明石市、もう一つは、奈義町です。両方ともとても有名です。政府の資料などにも、たくさん出てきます。何を実施しているかというと、幅広い子育て世帯を支援しています。
明石市は、シティ・プロモーションがとても強力ですが、ホームページだけ見ると、すごい無料を打ち出しています。お金かかりませんということを出していますが、実際に政策を見ると、そればかりやっているわけではなくて、しっかり保育園もやっていて、さらに在宅子育て支援もやっていて、幅広くやっているのがポイントではないかと思います。
また、奈義町に関してもそのとおりです。
そして、データ分析とは少し違うところは、両方とも経済的負担を軽減する施策はやっています。ただし、留意点があります。それぞれの自治体の近隣、あるいは自治体に雇用の場があることです。
明石市は、隣に神戸市があり、賃金の高い働く場所があります。ベッドタウンとして子育て支援を充実させることで、移住も含めて人口が増えていきます。
奈義町には、自衛隊の駐屯地があり、その効果は無視できないと思います。
それを差し引いても、両自治体が行っている少子化対策は、データで分析されたものとかなり一致するものが多いです。
もう少し補足すると、どのように分析したかというと、日本の市町村にアンケートを行い、その市町村における、ある時点での少子化対策について、その後の出生率回復にどう影響したかを統計的に分析しています。
分析から、二つの知見が出ます。
一つの知見は、ある特定の施策をやったかやらないかによって、出生率は変わらないことです。例えば、保育を一生懸命やりました、他はやっていません。その場合、出生率は回復しません。同じことは、結婚支援もそうです。他にも、医療費の話も同じだと思います。
二つ目は、幅広くいろいろなことをやっている自治体は、あまりやっていない自治体よりも出生率の回復が明らかに有意にプラスです。
現物給付については、我が国は、ある程度の金額的、総額的な水準に来ています。そうなると、次の段階としては、まだ不十分な部分の現金給付を拡充していくことではないかと思います。もう一つ、既にある現物給付を効率的、効果的に使用していく段階に来たのではないかと思います。
現金給付については、欧州主要国よりも大幅に少ない。これが客観的な現状です。となると、これを拡充することが必要だと思います。
王道は児童手当だと思います。ただし、出産準備金ですとか、あるいは、高等教育費の負担軽減ですとか、これは経済的負担を軽減するのに準じる施策だと見ます。
もう一つは、税制による支援です。これは、自治体ベースではなく国全体の話になりますが、世代間の助け合いを維持していくには、今後避けられなくなっていく論点です。
少子化が進む現状は、子供を育てる人が、子育て費用を負担し、そして、今の世代は、上の世代を支えるための社会保障費や税を払っている流れになっています。当然、生まれた子供は、親の税や社会保障費を将来は背負うことになります。
しかし、もう一つあります。子供を産み育てなかった人の分も負担します。これでは、社会の持続は難しいと思います。
つまり、子供を産み育てない人も、子供を育てるための負担をある程度してもらえないかということです。税金か社会保険料ということです。そして、育った子供は、両者をもちろん支えていくことになるわけです。
もう一つ、忘れてはいけないのは、高齢者世代から孫世代、この流れです。これが財源の問題です。家族関係社会支出が多い国は、国民負担率も高いです。我が国もできる範囲で、国民負担率を引上げざるを得ない状況になりつつあると思います。
会派によって、スタンスが違うかもしれませんが、私としては、大きな借金を次世代にどんどんつけるような政策は良くないと思っているので、やはり今の世代の適切な負担を考える必要があると思います。
ただし、その際、何らか増税する際には二つの視点は必要です。高齢者も申し訳ないが、子育て支援のために負担してほしい。もう一つは、子育てする世代については、実際、子育てしている人については、経済的支援の拡充と増税の差を大きく純増にすることが必要ではないでしょうか。この分析は、子供を持つ女性が、もう一人子供を持ちたいという気持ち、これが何倍に変わるか、仮想的に分析したものです。1倍というのが今の基準だとしてください。児童手当が1.5倍や2倍に増えると、3倍ですとか11倍ですとか、つまり気持ちはそれだけ高まると思ってください。教育費の負担軽減は、さらにそれよりも効果があります。問題は何かというと、増税です。0.5パーセント消費税という条件で、増税は、明らかに出産を減らします。児童手当は1.5倍にして3.3倍、そして、子育て支援の増税が0.6倍だと、3.3倍掛ける0.6倍ですから2倍ぐらいになるわけです。増税したとしても、あるいは、社会保険料負担を増やしたとしても、それ以上に現物給付や、もしくは、現金給付として子育て支援をすることによって出産意欲をプラスにしていく、これが少子化対策と適正な負担の在り方ではないかと私は思います。
都市と地方の少子化について話します。これは、愛知県も関係します。
御存じのとおり、地方から東京圏への若年人口移動、これが問題です。転入超過率と合計特殊出生率、これを縦軸と横軸にして都道府県をプロットすると、こうなります。転入超過率がプラスになっている。そして、出生率が非常に低いのが東京です。たくさん若者が転出していて、そして、出生率は高いですが、転出している。これは長崎などです。
愛知県はどこになるかというと、とてもいいポジションにいます。何かというと、転入超過率、ややプラスです。コロナ前のものですが、ややプラス、そして、出生率の水準は、いわゆる首都圏よりもはるかに高いです。最近、愛知県は、下がってきていますが、まだまだ高い方です。こうなると、愛知県のポジションとしては、どこを目指すかというと、右に行ければよいですが、右よりは上に行ってもらいたいです。間違っても、左には行ってはいけないと思います。
では、愛知県の市町村別の出生率を色分けするとどうなるかというと、この図です。これは、私が共同研究したもので、2015年前後と少し古い値になりますが、暖色の高い、強いところが出生率が高いと思ってください。これが名古屋市です。これが豊田市です。
愛知県の特徴は何かというと、名古屋市と豊田市の間が出生率が高いです。幾つかの自治体のヒアリングなども踏まえると、こう解釈できます。愛知県は、名古屋市と豊田市という二つの経済エンジンがあります。つまり、そこに勤めに行くわけです。また、関連企業もあります。そして、ベッドタウンにもなるわけです。それゆえに出生率が比較的高くなります。
愛知県の特徴として、強い産業と良質な雇用の場がある。これが愛知県の強さで、出生率を上げているのだと思います。
また、住宅コストが安いです。そして、親族の育児支援が意外と強いことも、愛知の特徴かと思います。
それから、自治体のヒアリングをして、見えてきたものは、着実に幅広い子育て支援を各自治体はやっています。しかし、愛知県の中で、突出して子育て支援をしている自治体は、全国規模に通じる名前があまりない気がしますが、調べてみると、愛知県の自治体は、やっています。つまり、幅広く子育て支援をしているのではないかと思います。
ちなみに、雇用と出生率の関係は、我々が調べた熊本県についても同じような結果を得ています。熊本県の出生率は、愛知県よりもはるかに高いです。人口も大きいです。九州の中では、比較的大きな自治体です。
ここが熊本市です。どこが出生率の高い自治体かというと、熊本市に隣接するこの辺りです。菊陽町や合志市という自治体で、TSMCという巨大な半導体工場ができるところです。ここは、長い時間をかけて、工業団地を整備し、この半導体工場が来る前から、かなりの工場を誘致してきました。このことにより、雇用の場が生まれ、若い世代が移り住むことができ、出生率が比較的高いという事例です。
出生率回復のために幾つかの自治体を見ていくと、恐らくは二つ必要だと見ています。それは、狭い意味での少子化対策と広い意味での少子化対策です。
狭い意味での少子化対策は、この参考資料の前までに話しているものを指しています。いわゆる結婚、妊娠、出産、子育て支援というものです。これについては、全ての子育て世代を支えていくために、幅広くやることが大事だと思います。
一方、広義の少子化対策が、いわゆる地方創生で言われてきたものです。地元に雇用の場をつくる、産業を活性化させる、Uターンをさせる、こういうことです。これが大事です。ただし、広義の少子化対策は、勝手に人が転入する自治体は必要としません。例えば東京などです。それから、大都市のベッドタウンは必要ありません。そもそも、大都市がこれをやってくれるからです。愛知県については、名古屋市は、あまり関係ないですが、幾つかの自治体に関しては、ある程度、関係してくると見ています。
ここまでで私の話とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。
(主な質疑)
【委員】
多く子供を産む家庭をしっかり支援していくことは、私も気がつかなかったところである。
個人の自由と社会の課題について、これらを混同していくことは、やはり行政として、政治としてあまり良くないということも感じた。
現在、国は、子供の未来戦略を打ち出し、4月からは、こども家庭庁が動き始めた。そこでどのような方向性を出していくのか、また、子ども・子育て、幼児教育に関する予算をどれくらい確保するのか、今後、しっかりと打ち出されると思う。
幼児教育の無償化について、私自身、非常に大きく進めていく必要があると感じている。ただし、子育てに関しては、県が直接関わることが少ない。国から直接、基礎自治体に対して行う施策、または中間の都道府県を通して支援をすることはあるが、やはり、基本的には、子育てに関わる費用は国で負担していくことが本来ではないか。これが、20年、30年先を考えたときに、今ここで、国はしっかりとした方向性を持って決断するべきではないか。
全体の支援は、松田参考人の言うとおりであり、考え方が少し強く、反対する人もいるかもしれないが、今後、20年、30年、40年、50年先の日本をつくり出していくためには、増税など、今こそ大きく踏み出していかなければならないと思っているが、松田参考人は、どのような考えがあるのか。
【参考人】
確認であるが、幼児教育の無償化については、今後、子育てや教育に係る費用負担を軽減していく方向性がなされている。
また、国が予算を負担すべきではないかという質問の趣旨は、こう理解してよいか。つまり、幼児教育無償化、これは全国一律のもので、本来であれば国が全ての費用を負担するのが筋ではないか。しかしながら、実際のところは、自治体からも幾つか負担があることに問題があるのではないかという質問と理解してよいか。
そうだとすると、私が先ほど言ったとおり、例えば、幼児教育無償化については、これは全国どこにでも発生するものであることから、国全体でやるものではないかと思う。しかしながら、現状がどのような政治的な経緯でこうなっているかというのは私には分からない。
【委員】
将来的に、2050年に人口が1億人を切り、9,000万人を切っていく。それはそれで、国として持続できるようであれば、良いと思う。ただし、なかなか難しいのではないか。だから、ここで少子化対策を行う必要がある。もちろん、少子・高齢化対策全体を取り組む中で、高齢化対策はもちろん必要であるが、少子化対策に重点を置いた方が我が国を維持するのに必要ではないかという報道が非常に多くなってきた。そう考えると、やはり、30年、40年先に、しっかり子供たちを産み育てて、かかる費用は社会全体で全部負担をしていく方向に行くのではないかという意味で、社会全体でしっかりと負担していかないと、将来、日本という国を持続するためにも、今ここで大きくその方向性に踏み出していく必要があるのではないか。
【参考人】
そのとおりである。少子化対策は、この国やこの社会を持続するために必要だと思う。それは、人口的に持続しなければ、社会保障も含め、全ての社会制度が崩れてしまう。そう考えたときに、次世代を育てていく費用をできるだけ子どもを育てている親だけの負担ではなく、社会的に負担していく方向性が必要だと思う。
【委員】
県内の各自治体でも、それぞれ子育て支援の施策はやっていると思うが、子育て世帯の人からは、将来が不安で子供をなかなか持つことができない、高齢化していくのに先行きが不安だ、今の日本は不安だということをよく聞く。そこで、不安の正体というのは、何が要因だと考えるか。
【参考人】
非常に難しい質問である。
まず、将来が不安だから子供を持ちたくないという気持ちは、非常によく分かる。過去の私の研究であるが、リーマンショックが起こり、経済の先行きが不透明となった。その時は、結婚や出産意欲は落ちた。そのような状況の中で、子供を産み育てるというところに気持ちが向かなくなるのは、そのとおりだと思う。
不安の正体については、私の守備範囲ではない。少子化対策に関して、しっかりと結婚や出産ができる制度を整えていく、あるいは、雇用環境を整えていくことは、最低限のその不安に対する回答になるのではないかと思う。
【委員】
今回のテーマにはなかったが、総域的な少子化対策ということで育児休暇について伺う。
少子化問題の中で、様々な統計を見せてもらったが、夫の出生意欲の低下ということが一つ大きく理由に挙げられていたと思う。
何年か前に読んだ本なので正式な題名を覚えてはいないが、本の中では、少子化政策をする上で、そもそも育児休暇の在り方を考えなければいけないという書き出しがあった。
理由としては、フランスでは、まず育児休暇を企業が強制的に取らせると書かれていた。この目的の一つとしては、夫婦で子供を育てるという考え方を醸成していくことだと書かれていた。
私も2人の子供がいるが、仕事で出産も立ち会えず、子育てというと、どうしても母親の仕事ではないかという固定概念があったが、フランスの場合は、もともと夜泣きやおむつを交換する際は、母親だけではなく、父親も積極的に参加することによって、2人の大切な子供を育てていくという気持ちを醸成する上で、育児休暇の取り方は、非常に重要だということから、本は始まっていた。
政策に関しては、全てそのような考え方が根底にあるからこそ、フランスの子育て政策は、パズルのようにうまく組み合わされていて、その結果、出生率が高いのではないかと納得できた部分があった。
何を聞きたいかというと、基本的には、男性も育児に参加をさせるという感覚を持つことで、父親の出生意欲が低下しないのではないかという思いがあり、子育て、少子化対策を考えていく上で、育児休暇の取り方を考えていくだけで、ある程度は改善できるのではないかと思うが、育児休暇の考え方について伺う。
【参考人】
二点ほど回答したい。一点目は、育児休業について、どのような取組、方向性が望ましいかという話、二点目は、フランスの少子化対策について、私が押さえている範囲から回答したい。
一つ目の育児休業については、まず育児休業を希望する人がしっかり取ることができるようにすることが基本的に大事なことだと思う。その際、長期の休業を取得したい夫婦、個人については、それがかなえられるようにしていくべきである。それに対して、短期間しか取れないが、それでも取りたい人についても、それをかなえるようにしたものが、最近の拡充された、さんきゅうパパ制度というものである。
必要なのは、様々な働き方があるので、それぞれの状況や家庭の経済状況に合わせて、長期の休業を選択する人から短期の休業を選択する人まで、幾つかのバリエーションを持たせて、どれかを取得できるようにしていくことが必要ではないかと思う。
逆に言うと、全ての人が休業を1年間取るのが理想かというと、それぞれの家庭や仕事の事情もあるので、私は違うと思う。
ちなみに、この育児休業と出生の関係は、実は日本では明確になっていない。私もいろいろと調べたが、統計的に分析することが難しい面がある。これは、研究者としてのこれからの課題かと思う。
二つ目のフランスの少子化対策について、私が押さえているフランスの特徴として、二点話す。
一点目は、圧倒的な経済支援である。これは欧州主要国の中で、はるかに早い段階から経済支援を拡充し、今に至っている。
二つ目が、フランスは、基本的にどのような選択をしても支援がある。例えば、就業自由選択補足手当といった手当である。つまり、育児休業を取ることもできれば、休んでいるときに、その分の経済的な支援がされるなど、幾つかの選択肢があるということである。幅広い人を、その選択に応じて支援するというものだと思う。