愛知県感染症予防計画


第1 愛知県感染症予防計画の基本理念

1 愛知県感染症予防計画策定の背景

 近年における新たな感染症の出現や既知の感染症の再興、国際交流の進展、人権の尊重や行政の公正透明化への要請、保健医療を取り巻く環境の変化等を踏まえ、これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し、総合的な施策の推進を図るため、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「法」という。)が、平成10年10月2日に公布され、平成11年4月1日から施行された。
 この法施行日に併せて、法第9条第1項に基づき、感染症の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針(平成11年厚生省告示第115号。以下「基本指針」という。)が定められた。
 愛知県感染症予防計画(以下「予防計画」という。)は、法第10条第1項に基づき、この基本指針に即して定めるものである。

2 予防計画の目的及び性格

 予防計画は、感染症の予防のための施策の実施に関する計画であり、感染症の発生の予防及びまん延の防止を目的としている。
 また、予防計画は、法第10条第2項各号に規定する事項を定め、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、感染症対策を総合的かつ計画的に推進するために策定する。
 なお、県は、少なくとも5年ごとに予防計画に再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。

3 感染症の予防の推進の基本的な方向

(1) 事前対応型行政の構築

 感染症対策は、国内外における感染症に関する情報の収集、分析並びに県民及び医師等医療関係者への公表(以下「感染症発生動向調査」という。)を適切に実施するための体制(以下「感染症発生動向調査体制」という。)の整備、基本指針、予防計画及び特定感染症予防指針に基づく取組を通じて、普段から感染症の発生及びまん延を防止していくことに重点を置いた事前対応型の行政として取り組んでいく。

(2) 県民個人個人に対する感染症の予防及び治療に重点を置いた対策

 今日、多くの感染症の予防及び治療が可能となってきているため、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報の収集及び分析とその分析の結果並びに感染症の予防及び治療に必要な情報の県民への積極的な公表を進めつつ、県民個人個人における予防及び感染症の患者に対する良質かつ適切な医療の提供を通じた早期治療の積み重ねによる社会全体の予防を推進する。

(3) 人権の尊重

 感染症の予防と患者等の人権の尊重の両立を基本とする観点から、患者の個人の意思や人権を尊重し、一人一人が安心して社会生活を続けながら良質かつ適切な医療を受けられ、入院の措置がとられた場合には早期に社会に復帰できるような環境の整備に努める。
 感染症に関する個人情報の保護には十分留意する。また、感染症に対する差別や偏見の解消のため、報道機関に協力を求めることを含め、あらゆる機会を通じて正しい知識の普及啓発に努める。

(4) 健康危機管理の観点に立った迅速かつ的確な対応

 感染症の発生は、周囲へまん延する可能性があり、県民の健康を守るための健康危機管理の観点に立った迅速かつ的確な対応が求められる。そのため、感染症の発生状況等の的確な把握が不可欠であり、感染症の病原体の検査を含めた総合的な感染症発生動向調査体制の確立に向けて、疫学的視点を重視しつつ、行政機関内の関係部局はもちろんのこと、その他の関係者が適切に連携して迅速かつ的確に対応できる体制の整備を行うとともに、基本指針及び予防計画に基づき、また健康危機管理の段階に応じた行動計画等の策定及びその周知を通じ、健康危機管理体制を構築する。

(5) 結核対策

 結核患者数は減少傾向にあるものの、り患の中心は高齢者であること、都市部で多く生じていること、結核発症の危険性が高いとされる幾つかの特定の集団が存在するなど、より効果的な結核対策の実施が重要となっている。
 これらに対応するため、県は、結核対策に係る具体的な対策プランを策定し、本県における結核対策を総合的に推進する。

4 県及び市町村の果たすべき役割

(1)  県及び市町村は、施策の実施に当たり、地域の特性に配慮しつつ、相互に、及び国と連携して、感染症の発生の予防及びまん延の防止のための施策を講ずるとともに、正しい知識の普及、情報の収集・分析・公表、研究の推進、人材の養成・確保・資質の向上、迅速かつ正確な検査体制の整備、社会福祉等の関連施策との有機的な連携に配慮した医療提供体制の整備等の感染症対策に必要な基盤を整備する責務を負う。この場合、県及び市町村は、国と連携して、感染症の発生の予防及びまん延の防止のための施策に関する国際的動向を踏まえるとともに、感染症の患者等の人権を尊重する。
(2)  県及び保健所を設置する市(名古屋市、豊橋市、岡崎市、豊田市。以下「県等」という。)は、相互に連携して感染症対策を行う。
(3)  県等は、保健所を地域における感染症対策の中核的機関として、また、県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所を感染症の技術的かつ専門的な機関として機能するよう充実強化する。
(4)  県等は、複数の都道府県等(都道府県、保健所を設置する市及び特別区をいう。以下「都道府県等」という。)の広域的な地域に感染症のまん延のおそれがあるときには、近隣や、人及び物の移動に関して関係の深い都道府県等と相互に協力しながら対策を行う。また、このような場合に備えるため、国と連携を図りながらこれらの都道府県等との協力体制についてあらかじめ協議をする。

5 県民の果たすべき役割

 県民は感染症に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うよう努めなければならない。また、感染症の患者等について、偏見や差別をもって患者等の人権を損なわないようにしなければならない。

6 医師等の果たすべき役割

(1)  医師その他の医療関係者は、5に定める県民の果たすべき役割に加え、医療関係者の立場で国、県及び市町村の施策に協力するとともに、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、患者等に対する適切な説明を行い、その理解の下に良質かつ適切な医療を提供するよう努めなければならない。
(2)   病院、診療所、病原体等の検査を行っている機関、老人福祉施設等の開設者等は、施設における感染症の発生の予防やまん延の防止のために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(3)  医師会等の医療関係団体は、国、県及び市町村の施策に協力し、感染症の発生やまん延の防止に努めなければならない。

7 獣医師等の果たすべき役割

(1)  獣医師その他の獣医療関係者は、5に定める県民の果たすべき役割に加え、獣医療関係者の立場で国、県及び市町村の施策に協力するとともに、感染症の予防に寄与するよう努めなければならない。
(2)  動物等取扱業者(法第5条の2第2項に規定する者をいう。以下同じ。)は、5に定める県民の果たすべき役割に加え、自らが取り扱う動物及びその死体(以下「動物等」という。)が感染症を人に感染させることがないように、感染症の予防に関する知識及び技術の習得、動物等の適切な管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

8 感染症対策における国際協力

 県等は、国が進める国際機関等との情報交換や国際的取組への協力等の感染症対策に可能な限り協力する。

9 予防接種

 予防接種は、感染源対策、感染経路対策及び感受性対策からなる感染症予防対策の中で、主として感受性対策を受け持つ重要なものである。そのため、県及び市町村は、ワクチンに関する正しい知識の普及を進め、県民の理解を得つつ、医師会等の医療関係団体とも十分連携をし、積極的に予防接種を推進する。

第2 感染症の発生の予防のための施策に関する事項

1 感染症の発生の予防のための施策に関する考え方

(1)  感染症の発生の予防のための対策においては、第1の3の(1)に定める事前対応型行政の構築を中心として、県及び市町村が具体的な感染症対策を企画、立案、実施及び評価していくことが重要である。
(2)  感染症の発生の予防のために日常行われるべき施策は、2に定める感染症発生動向調査がその中心としてなされるものであるが、さらに、平時(患者発生後の対応時(法第4章又は法第5章の規定による措置が必要とされる状態をいう。以下同じ。)以外の状態をいう。以下同じ。)における4に定める食品保健対策、5に定める環境衛生対策、6に定める感染症対策等について、関係各機関及び関係団体との連携を図りながら具体的に講ずる必要がある。また、患者発生後の対応時においては、第3に定めるところにより適切に措置を講ずる必要がある。
(3)  予防接種による予防が可能であり、ワクチンの有効性及び安全性が確認されている感染症については、実施体制の整備等を進め、予防接種法(昭和23年法律第68号)に基づき適切に予防接種が行われることが重要である。また、市町村は、地域の医師会等と十分な連携を行い、個別接種の推進その他の対象者が接種をより安心して受けられるような環境の整備を地域の実情に応じて行うべきである。さらに、県及び市町村においては、県民が予防接種を受けようと希望する場合、予防接種が受けられる場所、機関等についての情報を積極的に提供していくことが重要である。

2 感染症発生動向調査

(1)  知事及び保健所を設置する市の長(名古屋市長、豊橋市長、岡崎市長、豊田市長。以下「知事等」という。)が、感染症発生動向調査を実施することは、感染症の予防のための施策の推進に当たり、最も基本的な事項であり、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、新型インフルエンザ等感染症及び新感染症の情報収集、分析及び公表について、精度管理を含めた全国一律の基準及び体系で進めていくことが不可欠である。このため、県等は、特に現場の医師に対して、感染症発生動向調査の重要性についての理解を求め、医師会等を通じ、その協力を得ながら適切に進める。
(2)  県等は、法第12条第1項に規定する届出の義務について、医師会等を通じて周知を行い、病原体の提出を求めるとともに、最新の医学的知見を踏まえ、感染症発生動向調査の実施方法の見直しについて検討する。
 なお、法第14条第1項に規定する五類感染症のうち厚生労働省令で定めるものの発生の状況の届出を担当させる病院又は診療所(以下「指定届出機関」という。)及び法第14条の2第1項に規定する厚生労働省令で定める五類感染症の患者の検体又は当該感染症の病原体の提出を担当させる病院若しくは診療所又は衛生検査所(以下「指定提出機関」という。)の選定に当たっては、平成11年3月19日付け健医発第458号厚生省保健医療局長通知に基づき、保健所管内の人口及び医療機関の分布等を勘案して感染症の発生の状況及び動向の正確な把握ができるように行い、その開設者の同意を得て、知事が表1のとおり指定する。
 ただし、指定届出機関及び指定提出機関は、30日以上の予告期間を設けて、その指定を辞退することができる。この場合、知事は、必要に応じて新たに指定届出機関及び指定提出機関の指定を行う。
(3)  法第13条の規定による届出を受けた知事等は、当該届出に係る動物又はその死体が感染症を人に感染させることを防止するため、保健所、県衛生研究所、名古屋市衛生研究所、県動物保護管理センター等が相互に連携し、速やかに第3の5に定める積極的疫学調査の実施その他必要な措置を講ずる。
(4)  一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症の患者並びに新感染症にかかっていると疑われる者については、法に基づき健康診断等の感染症の発生の予防及びまん延の防止並びに患者に対する良質かつ適切な医療の提供が迅速かつ適切に行われる必要があり、また、四類感染症については、病原体の汚染された場所の消毒、ねずみ族及び昆虫等の駆除等の感染症の発生の予防及びまん延防止のための措置が迅速かつ適切に行われる必要があるほか、一部の五類感染症についても、感染の拡大防止のため迅速に対応する必要があることから、医師から知事等への届出については、適切に行われなければならない。
(5)  二類感染症、三類感染症、四類感染症及び五類感染症の疑似症については、感染症の発生の予防及びまん延の防止のための措置が迅速かつ適切に行われる必要があることから、法第14条に規定する指定届出機関から知事等への届出が適切に行われなければならない。
(6)  感染症の病原体の迅速かつ正確な特定は、患者への良質かつ適切な医療の提供のために不可欠であり、感染症の発生の予防及びまん延の防止のために極めて重要である。したがって、県等は、県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所を中心として、病原体に関する情報が統一的に収集、分析及び公表される体制を構築するとともに、必要に応じて医療機関等の協力を得ながら、病原体の収集・分析を実施する。
(7)  県等は、平成11年3月19日付け健医発第458号厚生省保健医療局長通知に基づき、患者情報と病原体情報を併せて全国一律の基準及び体系で一元的に機能する感染症発生動向調査体制を次のとおり構築する。
  ア 基幹地方感染症情報センター
 県等は、県全域の全ての患者情報及び病原体情報を収集、分析し、全国情報と併せて、地方感染症情報センター等の関係機関に提供するため、県衛生研究所を基幹地方感染症情報センターとして位置付ける。
 また、県は、県全域の情報の収集、分析の効果的で効率的な運用を図るため、感染症の専門家、医師会の代表等からなる地方感染症発生動向調査委員会を基幹地方感染症情報センター内に設置する。
イ 地方感染症情報センター
 地域内の患者情報及び病原体情報を収集、分析し、関係機関に提供するため、県は県衛生研究所内に、名古屋市は名古屋市衛生研究所内に、豊橋市は豊橋市保健所内に、岡崎市は岡崎市保健所内に、豊田市は豊田市保健所内に地方感染症情報センターを設置する。
ウ 中央感染症情報センターとの連携
 基幹地方感染症情報センター及び地方感染症情報センターは、国立感染症研究所感染症疫学センター内に設置された中央感染症情報センターと連携を密にして情報の収集を行う。
(8)  新型インフルエンザウイルスが出現した場合の健康危機管理体制を有効に機能させるためには、まず、新型インフルエンザウイルスの出現を迅速かつ的確に把握することが不可欠である。県等においては、新型インフルエンザウイルスの侵入が予想される中部国際空港を中心とした知多半島地域及び名古屋港周辺地域を視野に入れ、同ウイルスの監視体制を一層強化するとともに、検疫所との連携を含む情報収集体制の整備を図る。
(9)  県等は、新型インフルエンザウイルスの出現等を始めとした国内外の感染症発生の状況、動向及び原因に関する情報の収集について、国立感染症研究所を始めとする関係各機関と連携しながら積極的に進める。

3 結核に係る定期の健康診断

(1)  高齢者、結核発症の危険性が高いとされる幾つかの特定の集団、発症すると二次感染を起こしやすい職業等の定期の健康診断の実施が有効かつ合理的であると認められる者については、重点的な健康診断を実施する。
(2)  県が策定する結核対策に係る具体的な対策プランの中に、市町村の意見を踏まえ、罹患率等の地域の実情に応じ、定期の健康診断の対象者について定める。

4 感染症の予防のための対策と食品保健対策の連携

 県等においては、感染症対策部門と食品保健部門の効果的な役割分担と連携が必要である。飲食に起因する感染症の予防に当たり、食品の検査及び監視を要する業種や給食施設への発生予防指導については、他の食中毒対策と併せて食品保健部門が主体となり、二次感染によるまん延の防止等の情報の公表や指導については感染症対策部門が主体となって行う。
 なお、県等は、地域の実情に即した感染症発生の予防のための措置を適切に実施する。

5 感染症の予防のための対策と環境衛生対策の連携

(1)  平時において、水や空調設備、ねずみ族及び昆虫等を介する感染症の発生の予防対策を講ずるに当たり、県等は、感染症を媒介するねずみ族及び昆虫等(以下「感染症媒介昆虫等」という。)の駆除並びに防鼠(そ)及び防虫に努めることの必要性等の正しい知識の普及、蚊を介する感染症が流行している海外の地域等に関する情報の提供、カラス等の死亡鳥類の調査、関係業種への指導等について感染症対策部門と環境衛生部門の連携を図る。
(2)  平時における感染症媒介昆虫等の駆除並びに防鼠及び防虫は、感染症対策の観点からも重要である。この場合の駆除並びに防鼠及び防虫については、地域によって実情が異なることから、各市町村が各々の判断で適切に実施する。また、駆除に当たっては、過剰な消毒及び駆除とならないよう配慮する。

6 感染症の予防のための対策と検疫所との連携

(1)  県等は、検疫所から検疫感染症及びこれに準ずる感染症の調査及び衛生措置を行った場合の通報があった場合には、周囲の感染症の発生状況等を把握し、必要に応じて、防疫措置等を実施する。
(2)  県等は、検疫所から一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、新型インフルエンザ等感染症及び指定感染症の病原体の保有が明らかになった又は検疫感染症の病原体に感染したおそれのある者で停留しない入国者の健康状態の異状を確認した旨の通知を受けた場合には、検疫所と連携し、必要な感染症対策を実施する。

7 感染症の予防のための対策と検疫所との連携

 県等は、感染症の予防を効果的かつ効率的に進めていくため、県等の感染症対策部門、食品保健部門、環境衛生部門等が適切に連携を図っていくことが基本であるが、学校、企業等の関係機関及び団体等とも連携を図る。さらに、国、都道府県、市町村及び医師会等の医療関係団体との連携体制を構築する。

第3 感染症のまん延の防止のための施策に関する事項

1 患者発生後の対応に関する考え方

(1)  感染症のまん延の防止のための対策の実施に当たっては、健康危機管理の観点に立ち、迅速かつ的確に対応することが重要であり、その際には患者等の人権を尊重することが重要である。また、県民個人個人の予防及び良質かつ適切な医療の提供を通じた早期治療の積み重ねによる社会全体の予防の推進を図っていくことが基本である。
(2)  感染症のまん延の防止のためには、知事等が感染症発生動向調査等による情報の公表等を行うことにより、患者等を含めた県民、医療関係者等の理解と協力に基づいて、県民が自ら予防に努め、健康を守る努力を行うことが重要である。
(3)  対人措置(法第4章に規定する措置をいう。以下同じ。)等一定の行動制限を伴う対策を行うに当たっては、必要最小限のものとするべきであり、仮に措置を行う場合であっても患者等の人権の尊重が必要である。
(4)  知事等が対人措置及び対物措置(法第5章に規定する措置をいう。)を行うに当たっては、感染症発生動向調査等により収集された情報を適切に活用する必要がある。
(5)  事前対応型行政を進める観点から、県等においては、特定の地域に感染症が集団発生した場合における医師会等の医療関係団体や近隣の地方公共団体との役割分担及び連携体制について、まん延の防止の観点からあらかじめ定めておくことが必要である。
(6)  複数の都道府県等にまたがるような広域的な感染症のまん延の場合に備えて、県等においては、国や都道府県等との連携体制をあらかじめ構築しておくことが必要である。
(7)  知事は、予防接種法第2条第2項各号及び第3項に掲げる疾病のうち、厚生労働大臣が定めるもののまん延予防上緊急の必要があると認めるときは、予防接種法第6条第1項に基づき臨時に予防接種を行い、又は市町村長に行わせることができる。

2 検体の採取等、健康診断、就業制限及び入院

(1)  対人措置を講ずるに当たっては、感染症の発生及びまん延に関する情報を対象となる患者等に提供し、その理解と協力を求めながら行うことを基本とし、人権の尊重の観点から必要最小限のものとするとともに、審査請求に係る教示等の手続及び法第20条第6項に基づく患者等に対する意見を述べる機会の付与を厳正に行う。
(2)  検体の提出若しくは検体の採取に応じるべきことの勧告又は検体の採取の措置の対象者は、一類感染症、二類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者若しくは無症状病原体保有者若しくは感染症の患者と接触した者など当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者又は新感染症の所見がある者若しくは新感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者とする。
(3)  健康診断の勧告等については、病原体の感染経路その他の事情を十分に考慮した上で、科学的に当該感染症にかかっていると疑うに足りる理由のある者を対象とすべきである。また、法に基づく健康診断の勧告等以外にも、知事等が情報の公表を的確に行うことにより、県民が自発的に健康診断を受けるよう勧奨する。
(4)  就業制限については、その対象者の自覚に基づく自発的な休暇、就業制限の対象以外の業務に一時的に従事すること等により対応することが基本であり、知事等は、対象者その他の関係者に対し、このことの周知等を行う。
(5)  入院の勧告等に係る入院においては、医師から患者等に対する十分な説明と同意に基づいた医療の提供が基本である。県等においては、入院後も、法第24条の2に基づく処遇についての都道府県知事等に対する苦情の申出や、必要に応じての十分な説明およびカウンセリング(相談)を通じ、患者等の精神的不安の軽減を図るよう医療関係者に要請する。
 知事等が入院の勧告を行うに際しては、県等の職員から患者等に対して、入院の理由、退院請求、審査請求に関すること等、入院の勧告の通知に記載する事項を含め十分な説明を行う。また、入院勧告等を実施した場合にあっては、知事等は、講じた措置の内容、提供された医療の内容及び患者の病状について、患者ごとに記録票を作成する等の統一的な把握を行う。
(6)  入院の勧告等に係る患者等が法第22条第3項に基づく退院請求を行った場合には、知事等は当該患者が病原体を保有しているかどうかの確認を速やかに行う。

3 感染症の診査に関する協議会

 知事等の諮問に応じ、法第20条第1項の規定による勧告及び同条第4項の規定による入院の期間の延長に関する必要な事項を審議させるため、知事等は、法第24条第1項及び同条第2項に基づき、感染症の診査に関する協議会(以下「感染症診査協議会」という。)を表2のとおり、一宮保健所、瀬戸保健所、半田保健所、衣浦東部保健所及び豊川保健所並びに名古屋市、豊橋市、岡崎市及び豊田市の保健所に設置する。
 なお、当協議会の委員の任命に当たっては、患者等への医療及び人権の尊重の視点が必要であることから、この趣旨を十分に考慮する。

4 消毒その他の措置

 消毒、ねずみ族及び昆虫等の駆除、物件に対する措置、建物への立入制限又は封鎖、交通の制限及び遮断等の措置を講ずるに当たり、知事等及び知事の指示を受けた市町村長は、可能な限り関係者の理解を得ながら実施していくよう努めるとともに、これらの措置は、個人の権利に配慮しつつ、必要最小限のものでなければならない。

5 積極的疫学調査

(1)   法第15条に規定する感染症の発生の状況、動向及び原因の調査(以下「積極的疫学調査」という。)については、国際交流の進展等に即応し、より一層、その内容を充実させることが求められる。
 この積極的疫学調査は、@一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者が発生し、又は発生した疑いがある場合、A五類感染症の発生の状況に異状が認められる場合、B国内で発生していない感染症であって国外でまん延しているものが発生するおそれがある場合、C動物が人に感染させるおそれがある感染症が発生し、又は発生するおそれがある場合、Dその他知事等が必要と認める場合に的確に行う。この場合においては、保健所、県衛生研究所、名古屋市衛生研究所、県動物保護管理センター等と密接な連携を図ることにより、地域における流行状況の把握並びに感染源及び感染経路の究明を迅速に進めていく。
(2)  知事等が積極的疫学調査を実施する場合は、必要に応じて国立感染症研究所、国立国際医療センター、他の都道府県等の地方衛生研究所等の協力を求める。また、他の都道府県等から協力の求めがあった場合は必要な支援を積極的に行う。

6 指定感染症への対応

 知事等は、指定感染症が政令で定められた場合には、県民に対して、速やかに予防方法等の周知を図るとともに、国と連携して必要な対策を実施する。

7 新感染症への対応

 知事等は、新感染症(一類感染症と同様の危険性を有し、病原体が不明である疾病をいう。以下同じ。)が疑われる症例が医師から報告された場合には、国と密接に連携を図り、国の技術的指導及び助言に基づき必要な対策を実施する。

8 感染症のまん延の防止のための対策と食品保健対策の連携

(1)   飲食に起因する感染症が疑われる疾患が発生した場合には、県等は、保健所長等の指揮の下、食品保健部門は主として食品及び食品提供施設の検査等を行うとともに、感染症対策部門は患者に関する情報を収集するといったような役割分担により、相互に連携を図りながら、迅速な原因究明を行う。
(2)  病原体、原因食品、感染経路等が判明した場合には、県等の食品保健部門は、一次感染を防止するため、原因物質に汚染された食品等の販売禁止、営業停止等の行政処分を行い、また、感染症対策部門は必要に応じ、関係者に対し消毒等の指示等を行う。
(3)  二次感染による感染症のまん延の防止については、感染症対策部門において感染症に関する情報の公表その他必要な措置をとる等により、その防止を図る。
(4)  原因となった食品等の究明に当たり、保健所等は、県衛生研究所・名古屋市衛生研究所、国立試験研究機関等との連携を図る。

9 感染症のまん延の防止のための対策と環境衛生対策の連携

 水や空調設備、ねずみ族及び昆虫等を介した感染症のまん延の防止のための対策を講ずるに当たり、県等の感染症対策部門は、環境衛生部門との連携を図る。

10 患者発生後の対応時における検疫所との連携

 国内に常在しない感染症の患者が発生した場合においては、県等は、検疫所と連携して、当該感染症について、第2の6に定める対応を強化する。

11 関係各機関及び関係団体との連携

 感染症のまん延の防止のためには、特に感染症の集団発生や原因不明の感染症が発生した場合に対応できるよう、県等は、国、都道府県、市町村及び医師会等の医療関係団体との連携体制を構築する。

第4 感染症に係る医療を提供する体制の確保に関する事項

1 感染症に係る医療提供の考え方

(1)  近年の医学・医療の著しい進歩により、多くの感染症について治療が可能となった現在においては、感染症の患者に対して早期に良質かつ適切な医療を提供し、重症化を防ぐとともに、感染症の病原体の感染力を減弱し、かつ、消失させることにより周囲への感染症のまん延を防止することが施策の基本である。
(2)  実際の医療現場においては、感染症に係る医療は特殊なものではなく、まん延防止を担保しながら一般の医療の延長線上で行なわれるべきであるとの認識の下、良質かつ適切な医療の提供が行われるべきである。このため、特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関及び第二種感染症指定医療機関においては、@感染症の患者に対しては、感染症のまん延の防止のための措置をとった上で、できる限り感染症以外の患者と同様の療養環境において医療を提供すること、A通信の自由が実効的に担保されるよう必要な措置を講ずること、B患者がいたずらに不安に陥らないように、十分な説明及びカウンセリング(相談)を患者の心身の状況を踏まえつつ行うこと等が重要である。また、結核指定医療機関においては、患者に薬物療法を含めた治療の必要性について十分に説明し、理解及び同意を得て治療を行うことが重要である。
(3)  特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関、第二種感染症指定医療機関及び結核指定医療機関は、その機能に応じて、それぞれの役割を果たすとともに、相互の連携体制や、国立感染症研究所及び国立国際医療センターとの連携体制の構築をしていく必要がある。

2 県における感染症に係る医療を提供する体制

(1)  知事は、主として一類感染症の患者の入院を担当させ、これと併せて二類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として、総合的な診療機能を有する病院のうち、法第38条第2項に規定する厚生労働大臣の定める基準に適合するものについて、その開設者の同意を得て、第一種感染症指定医療機関を、表3のとおり1か所指定する。この場合において、当該指定に係る病床は、原則として2床とする。
 また、患者の病状等から移送が困難な場合においては、法第19条第1項ただし書きの規定により、知事等が適当と認める医療機関に入院させ、国及び関係機関の協力を得て、患者の治療を実施し、感染症のまん延防止を図る。
(2)  知事は、二類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる医療機関として、総合的な診療機能を有する病院のうち、法第38条第2項に規定する厚生労働大臣の定める基準に適合するものについて、その開設者の同意を得て、第二種感染症指定医療機関を表4のとおり13か所指定する。
(3)  第二種感染症指定医療機関(結核病床を除く。)を二次医療圏(医療法(昭和23年法律第205号)第30条の4第2項第12号に規定する区域をいう。以下同じ。)ごとに原則として1か所指定し、当該指定に係る病床の数は、当該二次医療圏の人口を勘案して必要と認める数とする。ただし、地理的条件、社会的条件、交通事情等に照らし、一つの病院に複数の二次医療圏の区域内の二類感染症(結核を除く。)又は新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させることが効率的であると認められるときは、当該指定に係る病床が当該複数の二次医療圏の区域内の人口を勘案して必要と認める病床数の総和以上となる限りにおいて、当該病院について、当該複数の二次医療圏の区域内の二類感染症(結核を除く。)又は新型インフルエンザ等感染症の患者の入院を担当させる第二種感染症指定医療機関(結核病床を除く。)として指定することができる。
 また、結核病床を有する第二種感染症指定医療機関については、結核の発生状況等を踏まえ、医療計画(医療法第30条の4第1項に規定する医療計画をいう。)で示す結核病床の基準病床数を満たすように病院を指定する。
 なお、医療計画の見直しが行われた場合等にあっては、必要に応じて新たな病院を指定する等、医療を提供する体制を確保する。
(4)  第一種感染症指定医療機関及び第二種感染症指定医療機関は、その指定を辞退しようとするときは、法第38条第8項に基づき、辞退の日の1年前までに、知事にその旨を届け出なければならない。この場合、知事は必要な病床数に不足が生じないよう新たな病院を指定する等、必要な措置を講ずる。
(5)  知事等は、感染症の患者の迅速かつ適切な移送のための体制の整備に努めるとともに、普段から消防機関等に対して、感染症等に関し、適切に情報を提供する等密接な連携を図り、感染症患者の移送及びまん延の防止対策に万全を期す。
 また、新感染症の所見がある者の移送及びまん延防止対策の実施に当たっては、国に積極的な協力を求めながら行う。
 さらに、消防機関が移送した傷病者が法第12条第1項第1号等に規定する患者であると医療機関が判断した場合には、医療機関から消防機関に対して、当該感染症等に関し適切に情報等を提供する。
(6)  一類感染症又は二類感染症が集団発生した場合や新型インフルエンザ等感染症の汎流行時には、一般の医療機関に緊急避難的にこれらの患者を入院させることがあるため、県等は、そのために必要な対応についてあらかじめ定めるものとする。
(7)  新型インフルエンザ等感染症などの汎流行時に、地域におけるその予防又は治療に必要な医薬品の供給及び流通を的確に行うため、医薬品の備蓄又は確保に努める。
(8)  一類感染症、二類感染症等で、国内に病原体が常在しないものについて、国内で患者が発生するおそれが高まる場合には、県が当該感染症の外来診療を担当する医療機関を選定し、保健所が当該医療機関に感染が疑われる患者を誘導するなど初期診療体制を確立することにより、地域における医療提供体制に混乱が生じないようにすることについて検討する。
(9)  県等は、国内において発生数が極めて少ない感染症が県内で発生し、その治療に当たり特別な医薬品が必要となった場合には、国と緊密な連携を図り、医薬品の確保に努める。

3 その他感染症に係る医療の提供のための体制

(1)  感染症患者に係る医療は、感染症指定医療機関のみで提供されるものではなく、一般医療機関においても提供されることがあることに留意する必要がある。具体的には、一類感染症、二類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者であっても、最初に診察を受ける医療機関は、一般の医療機関であることが多く、さらに三類感染症、四類感染症又は五類感染症については、原則として一般の医療機関において医療が提供されるものである。
 また、一般の医療機関においても、国及び県等から公表された感染症に関する情報について積極的に把握し、同時に医療機関内において感染症のまん延の防止のために必要な措置を講ずるよう努める。さらに、感染症の患者について差別的な取扱いを行うことなく、良質かつ適切な医療の提供がなされるよう努める。
(2)  一般の医療機関における感染症の患者への良質かつ適切な医療の提供が確保されるよう、県等は、医師会等の医療関係団体と緊密な連携を図る。

4 関係各機関及び関係団体との連携

(1)  感染症の患者に対する良質かつ適切な医療の提供のため、一類感染症、二類感染症及び新型インフルエンザ等感染症に対応する感染症指定医療機関については、知事が必要な指導を積極的に行う。
(2)  特に地域における感染症対策の中核的機関である保健所は、感染症指定医療機関や地域の医師会等の医療関係団体等との緊密な連携を図る。
(3)  一般の医療機関は、多くの場合感染症の患者を診察する最初の医療機関となることから、当該医療機関での対応が感染症の予防の観点からも、感染症の患者に対する良質かつ適切な医療の提供の観点からも極めて重要である。このため、県等は、それぞれ医師会等の医療関係団体との連携を通じて、一般の医療機関との有機的な連携を図る。

第5 感染症及び病原体等に関する調査及び研究に関する事項

1 感染症及び病原体等に関する調査及び研究に関する基本的な考え方

 感染症対策は、科学的な知見に基づいて推進されるべきものであることから、感染症及び病原体等に関する調査及び研究は、感染症対策の基本となるべきものである。このため、県等としても、必要な調査及び研究の方向性の提示、海外の研究機関等も含めた関係機関との連携の確保、調査及び研究に携わる人材の育成等の取り組みを通じて、調査及び研究を推進することが必要である。
 また、県等は、国が行う感染症に関する調査及び研究に共同研究・共同実施等の形で可能な限り協力することが必要である。

2 県及び市町村における調査及び研究の推進

(1)  県等における調査及び研究の推進に当たっては、地域における感染症対策の中核的機関である保健所及び感染症及び病原体等の技術的かつ専門的な機関である県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所が、県等の関係主管部局と連携を図りつつ、計画的に取り組む。
(2)  保健所は、地域における感染症対策の中核的機関として、感染症対策に必要な疫学的な調査及び研究を県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所との連携の下に進め、地域における総合的な感染症の情報の発信拠点としての役割を担う。
(3)  県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所は、県等の関係部局及び保健所との連携の下に、感染症の調査、研究及び試験検査並びに感染症及び病原体等に関する情報等の収集、分析及び公表の業務を通じて、感染症及び病原体等の技術的かつ専門的な機関としての役割を担う。
(4)  県及び市町村における調査及び研究については、感染症の発生の動向やその対策等、地域の環境や当該感染症の特性等に応じた取り組みを行い、その取り組みに当たっては、疫学的な知識及び感染症対策の経験を有する職員を活用する。

3 関係各機関及び関係団体との連携

 感染症及び病原体等に関する調査及び研究に当たっては、関係各機関及び医師会等の関係団体が適切な役割分担を行うことが重要である。このため、県等は、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター、日本医療研究開発機構を始めとする関係研究機関等と十分な連携を図る。

第6 感染症の病原体等の検査の実施体制及び検査能力の向上に関する事項

1 感染症の病原体等の検査の実施体制及び検査能力の向上に関する基本的な考え方

 感染症対策において、病原体等の検査の実施体制及び検査能力(以下「病原体等の検査体制等」という。)を十分に有することは、人権の尊重の観点や感染の拡大防止の観点から極めて重要である。
 県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所を始めとする各関係機関における病原体等の検査体制等について、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則(平成10年厚生省令第99号)第7条の3及び第8条の規定に基づき整備し、管理することが重要である。このほか、県等は、感染症指定医療機関のみならず、一般の医療機関における検査、民間の検査機関等における検査等に対し技術支援等を実施することが重要である。

2 県等における感染症の病原体等の検査の推進

(1)  県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所は、国立感染症研究所等と連携して、一類感染症の病原体等に関する検査のうち必要な項目を迅速かつ的確に実施できる体制を構築する。なお、県等は、広域にわたり又は大規模に感染症が発生し、又はまん延した場合を想定し、必要な対応についてあらかじめ近隣や人及び物の移動に関して関係の深い都道府県等との協力体制について協議しておくよう努める。また、二類感染症、三類感染症、四類感染症及び五類感染症の病原体等については、県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所において人体から検出される病原体及び水、環境又は動物に由来する病原体の検出が可能となるよう、人材の養成及び必要な資器材の整備を行うよう努める。
(2)  県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所は、自らの試験検査能力の向上に努めるとともに、地域の検査機関の資質の向上と精度管理に向けて、積極的な情報の収集及び技術的指導を行う。また、病原体等の検査については、必要に応じて他の地方衛生研究所と連携を図る。
(3)  県等は、病原体等の検査について、県衛生研究所・名古屋市衛生研究所と連携して、保健所が自らの役割を果たせるよう検査機能等の充実を図る。

3 県等における総合的な病原体等の検査情報の収集、分析及び公表のための体制構築並びに関係団体等との連携

 県等は、医師会等の医療関係団体、民間検査機関等と連携を図りながら、病原体等に関する検査情報の収集のための体制を構築するとともに、患者情報と病原体情報が迅速かつ総合的に分析され、公表できる体制を構築する。また、特別な技術が必要とされる検査については、県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所が国立感染症研究所、国立国際医療研究センター、大学の研究機関、他の地方衛生研究所等と連携を図って実施できるようにする。

第7 感染症の予防に関する人材の養成に関する事項

1 人材の養成に関する基本的な考え方

 現在、国内において感染者が減少している感染症に関する知見を十分有する者が少なくなっている一方で、新たな感染症対策に対応できる知見を有する多様な人材が改めて必要となっていることを踏まえ、県等は、これら必要とされる感染症に関する人材の確保のため、感染症に関する幅広い知識や研究成果の医療現場への普及等の役割を担うことができる人材の養成を行う必要がある。
 また、大学医学部を始めとする医師等の医療関係職種の養成課程や大学院等においても、感染症に関する教育を更に充実させていくことが求められる。

2 県等における感染症に関する人材の養成

 知事等は、国立保健医療科学院、国立感染症研究所等で実施される感染症に関する研修会に保健所、県衛生研究所及び名古屋市衛生研究所職員を積極的に派遣する。
 また、県等は、感染症に関する講習会等を開催すること等により保健所の職員等に対する研修の充実を図り、感染症に関する人材を養成する。さらに、これらにより感染症に関する知識を習得した者を地方衛生研究所や保健所等において活用する。

3 医師会等における感染症に関する人材の養成

 県は、感染症指定医療機関に対し、その勤務する医師の能力の向上のための研修等を実施するよう促し、医師会等の医療関係団体は、会員等に対して感染症に関する情報提供及び研修を行うものとする。

4 関係各機関及び関係団体との連携

 知事等は、各関係機関及び関係団体が行う研修へ職員を積極的に参加させるとともに、その人材の活用等に努める。

第8 感染症に関する啓発及び知識の普及並びに感染症の患者等の人権の尊重に関する事項

1 感染症に関する啓発及び知識の普及並びに感染症の患者等の人権の尊重に関する基本的な考え方

(1)  県及び市町村は適切な情報の公表、正しい知識の普及等を行うことが重要である。また、感染症のまん延の防止のための措置を行うに当たっては、人権を尊重することが必要である。
(2)  医師等は患者等への十分な説明と同意に基づいた医療を提供することが重要である。
(3)  県民は感染症について正しい知識を持ち、自らが予防するとともに、患者等を差別することがないよう人権を尊重していくことが重要である。

2 県及び市町村における感染症に関する啓発及び知識の普及並びに感染症の患者等の人権の尊重のための方策

(1)  県及び市町村は、診療、就学、就業、交通機関の利用等の場面において、患者等への差別や偏見の排除等のため、パンフレット等の作成、各種研修の実施等の必要な施策を講ずるとともに、相談機能の充実等住民に身近なサービスの充実に努める。特に、保健所は、地域における感染症対策の中核的機関として、感染症についての情報提供、相談等を行う。
(2)  県及び市町村は、患者に関する情報の流出防止のため、関係職員に対する研修、医療機関に対する注意喚起等を行う。

3 感染症に関する啓発及び知識の普及並びに感染症の患者等の人権の尊重のためのその他の方策

(1)  県等は、感染症の患者に関する届出を行った医師に対し、患者等のプライバシーの保護のため、状況に応じて、患者等へ届出内容を説明するよう周知を図る。
(2)  報道機関は、的確な情報を提供することが重要であるが、感染症に関し、誤った情報や不適当な報道がなされたときには、速やかにその訂正がなされるように、県等は、報道機関との連携を普段から密接に行う等の体制整備を図る。

4 関係各機関との連携

 県及び市町村は、国、都道府県及び市町村と相互に密接な連携を図るため、定期的に情報の交換を行う。

第9 緊急時における感染症の発生の予防及びまん延の防止並びに医療の提供のための施策(国と県及び市町村相互間の連絡体制の確保を含む。)に関する事項

1 緊急時における感染症の発生の予防及びまん延の防止並びに医療の提供のための施策

(1)  一類感染症、二類感染症又は新感染症の患者の発生又はそのまん延のおそれが生じた場合には、県は、当該感染症の患者が発生した場合の具体的な医療提供体制や移送の方法等について必要な計画を定め、公表することとする。
(2)  県等は、感染症の患者の発生を予防し、又はそのまん延を防止するために緊急の必要があると認めるときには、感染症の患者の病状、数その他感染症の発生及びまん延の状況を勘案して、当該感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するために必要な措置を定め、医師その他の医療関係者に対し、当該措置の実施に対する必要な協力を求め、迅速かつ的確な対策が講じられるようにすることとする。
(3)  県等は、国が、国民の生命及び身体を保護するために緊急の必要があると認めるときに派遣する感染症に関する試験研究又は検査を行っている機関の職員の受け入れ、その他特定病原体等による感染症の発生の予防又はまん延の防止のために必要な協力をし、迅速かつ的確な対策が講じられるようにすることとする。

2 緊急時における国との連絡体制

(1)   知事等は、法第12条第2項に規定する国への報告等を確実に行うとともに、特に新感染症への対応を行う場合その他感染症への対応について緊急と認める場合にあっては、国との緊密な連携を図る。
(2)   知事等は、検疫所から一類感染症の患者等を発見した旨の通知があった場合には、検疫所と連携し、患者と接触することにより感染の機会があった同行者等の追跡調査その他必要な感染症対策を実施する。
(3)   緊急時においては、県等は当該地域における患者の発生状況(患者と疑われる者に関する情報を含む。)等についてできるだけ詳細な情報を国に提供することにより緊密な連携を図る。

3 緊急時における県及び市町村相互間の連絡体制

(1)   関係都道府県及び市町村は、緊密な連絡を保ち、感染症の発生状況、緊急度等を勘案し必要に応じて、相互に応援職員、専門家の派遣等を行う。また、県等は消防機関に対して、感染症に関する情報等を適切に連絡する。
(2)   県等は関係市町村に対して、医師等からの届出に基づいて必要な情報を提供するとともに、相互に緊急時における連絡体制を整備する。
(3)   複数の市町村にわたり感染症が発生した場合であって緊急を要するときは、県は、県内の統一的な対応方針を提示することや、市町村間の連絡調整を行うこと等の指導的役割を果たす。
(4)   複数の都道府県等にわたり感染症が発生した場合又はそのおそれがある場合には、県は、関係都道府県等で構成される対策連絡協議会を設置する等の連絡体制の強化に努める。

4 県及び市町村と関係団体との連絡体制

 県及び市町村は、それぞれ医師会等の医療関係団体等と緊密な連携を図る。

5 緊急時における情報提供

 緊急時においては、県等が県民に対して感染症の患者の発生の状況や医学的知見など県民が感染予防等の対策を講じる上で有益な情報を、パニック防止という観点も考慮しつつ、可能な限り提供することが重要である。この場合には、インターネット、マスメディア等複数の媒体を設定し、理解しやすい内容で情報提供を行うものとする。

第10 その他感染症の予防の推進に関する重要事項

1 施設内感染の防止

 病院、診療所、老人福祉施設等において感染症が発生又はまん延しないよう、県等は、最新の医学的知見等を踏まえた施設内感染に関する情報をこれらの施設の開設者又は管理者に対し適切に提供する。また、これらの施設の開設者又は管理者は、提供された感染症に関する情報に基づき、必要な措置を講ずるとともに、普段より施設内の患者及び職員の健康管理を進めることにより、感染症が早期発見されるように努める。さらに、医療機関は、院内感染対策委員会等を中心に院内感染の防止に努めることが重要であり、実際にとったこれらの措置等に関する情報について、県等や他の施設に提供することにより、その共有化に努める。
 また、県等は、施設内感染に関する情報や研究の成果を、医師会等の関係団体等の協力を得つつ、病院、診療所、老人福祉施設等の現場の関係者へ普及するよう努める。

2 災害防疫

 災害発生時の感染症の発生の予防及びまん延の防止の措置は、生活環境が悪化し、被災者の病原体に対する抵抗力が低下する等の悪条件下に行われるものであるため、知事等は迅速かつ的確に所要の措置を講じ、感染症の発生及びまん延の防止に努める。その際、県等は、保健所等を拠点として、迅速な医療機関の確保、防疫活動、保健活動等を実施する。

3 動物由来感染症対策

(1)  知事等は、動物由来感染症に対する必要な措置等が速やかに行えるよう、獣医師に対し、法第13条第1項に規定する届出の義務について周知するとともに、関係機関及び獣医師会等の関係団体と連携を図り、県民への情報提供を行う。
(2)  ペット等の動物を飼育する者は、(1)により県民に提供された情報等により動物由来感染症に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うよう努める。
(3)  知事等は、積極的疫学調査の一環として動物の病原体保有状況調査(動物由来感染症の病原体の動物における保有の状況に係る調査をいう。)等により、保健所、県衛生研究所、名古屋市衛生研究所、県動物保護管理センター等が連携を図りながら動物由来感染症に関する情報を広く収集する。
(4)  動物由来感染症の予防及びまん延の防止の対策については、感染症の病原体を媒介するおそれのある動物に対する対策や、動物取扱業者等への指導、獣医師との連携等が必要であることから、県等の感染症対策部門において、ペット等の動物に関する施策を担当する部門と適切に連携をとりながら対策を講ずる。

4 外国人に対する適用

 県及び市町村は、国内に居住し又は滞在する外国人に対しても法が同様に適用されるため、これらの者に対し、関係機関の窓口に感染症対策について外国語で説明したパンフレットを備える等情報の提供に努める。