【記者】 |
街頭で沸き上がっている声や起きている現象に対して、政治がどう向き合うかについて取材をしています。2009年に年越し派遣村ができたときの対応について、その時は政権として良く対応したという評価の声があります。
当時、厚生労働副大臣として対応した大村知事に聞きたいのですが、あの現象が起きた時、どのように受け止めていましたか。 |
【知事】 |
2009年の正月ですね、年越し派遣村のときですね。あれはご案内のように2008年の秋、9月にリーマンショックが起きて、瞬く間に世界中に広がり、特に日本ではリーマンショック、そしてトヨタショックという形になって、金融システムなり金融機関が受けた打撃よりも、世界中から自動車も含めて色々な需要が蒸発してしまったと。特に自動車が一番大きな痛手を被ったということですが、大幅な減産、それから当然雇用も、当時いわゆる「派遣切り」という言葉がありましたが、派遣の方の雇い止め、それから契約期間終了、それからまた、正規社員の方も仕事がなくなるというような、そういう大変な事態でありました。
そこで、そのときにちょうど霞ヶ関の、厚生労働省の真ん前の日比谷公園のところで、年末年始に、派遣切りに遭って行き場がなくなった方々などを中心に、貧困ネットワークだったかな、弁護士の宇都宮さんとか湯浅誠さんとかが中心になってやられた団体の皆さんが、正月休みが明ければ公的な施設が動き出しますから、その年末年始の休みにそこで泊まってもらおうということで始められたということです。
私はたまたまその年の大みそかから元旦にかけて、田原さんの「朝まで生テレビ!」の元旦スペシャルに出て、ちょうど、そのテーマが雇用の問題とか、もろもろだったのですけど、そこで湯浅誠さんと。その前にNHKの番組で湯浅さんと一緒になったんです。そして、元旦スペシャルの「朝まで生テレビ!」でも一緒になって、この後一緒に行きませんか、行ってくれませんかと言われたんですけど、終わったのが朝6時で、ちょっと私は、元旦の新年会に行かなければいけないので帰るわと言って帰ったのですが、すぐその翌日、2日に湯浅さんからSOSが携帯電話にかかってきて、大変なことになると。どんどん膨れ上がって、熱を出している人もいるので病院も段取りして欲しいとか、色々なことがありました。これはやはり電話だけではいけないので、現場に行って、すぐ対応しなければいけないということで、現場に行って対応させていただいたということでございます。
やはり現場で、私は本当に現場に行って実際にその現場の状況を見て、あのときに来られた方が、当初150人ぐらいで段取りしていたのが300人を超えて、もう400人、500人になるような勢いでしたのでね。それが寒風吹きすさぶ中で、熱も出ている人もいるとなると、これは大変危険だということで、そのためには現場に行って、現地に行って肌感覚で、それを見て対応しなければいけない。大変深刻な状態だったので、私は、病院ももちろん段取りいたしましたが、厚労省の講堂をその場で開けると、2日の夜に開けるという判断をさせていただいたということなんです。
色々ご意見があったのは事実なんですけど、国の役所を、それも身分もわからないやつも含めて入れるとは何事だと、出ていかなくなったらどうするのだと、居つかれたどうするんだというような話もありましたけれども、それは現場に行った切迫感を持って対応すると、やはりそんなわけにいかないんですね。まず目の前のこと。この人たちが本当に、熱を出して死んでしまうかもしれないと思ったら、まずはそこを乗り越えて、その後は次のことだということでやるしかないのではないでしょうか。
私はそのとき、開けるときにはちゃんと、厚生労働大臣の舛添さんにも電話をし、当時の官房長官の河村さんにも電話をして了解をもらっておりましたけど、それはお二人とも現場にいませんから、現場にいるのは私だから私に任せてくれという話を言って任せてもらって、やらせてもらったということなんですね。
ですから、ちょっとテーマは違うかもしれませんが、安保法制を中心に、今東京だけではなくて、この愛知県でも名古屋だけではなくて色々なところで、各地区でそういった街頭で様々な活動がされておられるというのも承知しておりますが、特定の党派とか、そういったところに属する人だけではなくて、多くの広がりを持った形でそういう街頭での活動がされているということは、やはり私は重く受けとめなきゃいけないのじゃないかと思います。
我々政治家は、やはり常に現場に行って、現場の状況がどうなのかということを直接見て、そして肌で感じて、その空気というか動きというか熱気というか雰囲気というか、それが多くのまさに国民の声の一端だと思うんですね。
政治というのはやはり物事を解決していかなければいけませんから、デスクワークだけで、オフィスだけで、机の上だけで、きれいな文書をつくって完成という、そんなことはありませんので。やはり常に常に現場、現場、現場に行って物事を解決していくということでなければいけないと思うんです。
だとすると、私は、今、ご質問があったような全国で行われているようなそういった街頭活動の声、そうした空気、そうした熱気、やはり私は、そういったものをまずはしっかりと受け止めて。色々考えとか主張は、それぞれスタンスは違うのだろう、それぞれの人にとって、拠って立つ立場も違うかもしれませんし、これについては意見もいっぱいありますよ。だけど、まずはそういった声、空気を謙虚に、率直に受け止めるところから始めなければいけないのではないかと。私は、最近のそういった街頭での活動、色々な動きを見るにつけ、そういったふうに思っております。 |
【記者】 |
年越し派遣村の時と同じく、今回の安保法制も政権の枠組みとしては自公政権です。大村知事の属人的な要素もあったかもしれませんが、その時は対応ができて、それに対し、今回は十分に街頭の声と政治との回路をつなぐことができていないようです。この違いはどこから来ているのでしょうか。 |
【知事】 |
もちろんテーマが、まさに内政というか、派遣村のときは雇用問題であり、そしてまた実際にその現場でも、住む家もない、そして年末年始は公的な施設も開いていない、もう切迫しているという、はっきり言って人の命がかかっているような切迫している状況があったということと、今回はまさに国の行く末を決めていくということなので、ちょっとテーマというかあれは違うかもしれませんが、私は国内的な広がりからすれば、むしろ今回の安保法制に対する多くの国民の皆さんの動きとか声の方が広がりが大きいと思っています。
あのときも、確かに年越し派遣村というか、雇用の問題、雇い止めとか派遣切りとか、嫌な言葉ですけれども、実際問題、仕事が本当に世界的に蒸発してしまったので、会社も企業も、会社を守っていくためにはいたし方がない。正社員の仕事もない。定時割れという言葉なんていうのは、耳ではありましたけど、私は初めて見ましたよ。
大手企業さんが、もう1日6時間の仕事しかなくて、あとは工場を一生懸命掃除しているわけですよ。草をむしったり、そういったものは初めて見ました。そういったものは確かに全国的に、この後どうなるんだというのはありましたが、それではじき出された人たちが東京、名古屋、大阪とか大都市圏に集まってきたような感がありますけれども、今回はやはり、日本の国の行く末を考える、国の根幹である憲法ですよね。憲法の枠組みにかかわる話だから、そういう意味では大都市圏だけではなくて、日本全体、全国への広がりがあると私は受け止めております。
色々なお考えはあるにしても、やはりそういった広がりを持った運動であり、活動であり、色々なそういった動きなんだということを、私は政治に携わる方々はやはりまずはそれを率直に受けとめた上で、そういった声に謙虚に耳を傾けて、その上でじゃあこれをどういうふうに解決していくのが一番いい方法なんだということを、よくよく議論、検討していただきたいなと、そういうふうに思います。 |
【記者】 |
安保法制関連について、先程、知事から街頭の声を謙虚に率直に受け止めるところから始めるべきだという発言がありました。
現在、安保関連法案に関する参議院の委員会審議も大詰めを迎えているという状況ですが、知事は今の国会で安保関連法案を成立させることについてどのようにお考えですか。 |
【知事】 |
私は、この7月15日に、衆議院の特別委員会での採決を受けてコメントを出させていただきました。そこにあるとおりでありますけれども、この主立ったところをもう一回申し上げますと、日本及びアジア・太平洋の平和と安定を確保していくということは、日本の存立と国民の幸福と繁栄にとって大前提であり、こうした観点から、国権の最高機関である国会においては、国民の理解を深めていきつつ、十分な議論をしてもらいたいということがまず1点。
そして、その際は、戦後の日本及びアジア・太平洋の平和と安定に日本国憲法が果たしてきた大きな役割を踏まえた上で、議論をしてもらいたい。これが2点目。
そして3点目として、国民の間には、依然として、法整備に慎重な意見や、十分な理解が進んでいないとの指摘も多いことから、政府・与党にはそうした国民の意見をしっかりと受け止めていただく必要があると考えていると。
国会においては引き続き、国民はもとより、周辺諸国に対しても丁寧な説明を尽くしつつ、十分かつ慎重な議論を徹底的に行っていただくよう強く申し上げたいということが、7月の時点における私のコメントでございました。それは変わっておりません。
ですから私は、会期末が迫ってきているということではあろうかと思いますが、さらに多くの国民の皆さんの声に耳を傾けていただいて、十分かつ慎重な議論を引き続き徹底的に行っていただきたいと私は思っております。 |
【記者】 |
7月15日の知事のコメントでは、十分に慎重な議論をして欲しいとのことでしたが、それから2か月程がたちました。この間の国会での審議を聞いて、十分かつ慎重な議論がされていたとお考えですか。 |
【知事】 |
その後、参議院の審議で、途中、夏ですからお盆休みなどもありながら、衆議院で強行採決なのか強行的採決なのか別にいたしまして、ああいった形で荷崩れで法案がいきますと、特にこういう重要法案はそう簡単に立ち上がらないので、2か月といいながら、審議時間も含めて、与党側が期待していたような感じで進んではこなかったのでしょうね。時間もそんなに積み上がっておりませんから。
そういう意味も含めますと、私は、この2か月で議論が深まった、国民の皆さんの理解が深まったということにはなっていないと思います。ですから、そういう意味では、引き続き、私は十分かつ慎重な議論を徹底的に行っていただきたいと思っております。2か月前に申し上げたことと、今この時点で申し上げることは全く変わっていないと思います。私自身の考えも変わりませんが、状況的にも、はっきり言ってそんなに深まっていないのではないか、変わっていないのではないか。むしろ国会でいうと、出口が段々近づいてくると、本当に、この法律を今この段階で成立していいのかというような声の方が、私は何か高まってきているのではないかと率直に思います。
それは現に各新聞、テレビ、報道機関の皆さんが世論調査をしたときに、やはりその数字に出てきているのではないでしょうか。私は、色々な考え方があるのは承知しておりますけど、ああいった全国に広がっているこういった街頭活動も含めて、あと色々な地方自治体、県、市町村、色々な地方公共団体、地方自治体の議会でも、そういった慎重議論を求めるような意見書が数多く採択されていますよね。それは保守系の会派の人も含めてね。
今週もう、中央公聴会をセットしたから、その後、連休前に何としてもということのように報道でお聞きをいたしておりますけれども、私は引き続き、さらに議論を深めていただく必要があるのではないかと、私はそう思っております。 |
【記者】 |
知事は、今国会での成立にこだわるべきではないというお考えでしょうか。 |
【知事】 |
私はそういうふうに思っています。引き続き、さらに議論を深めた方がいいのではないかと私は思っています。 |