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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」 〈弱いロボット〉を活用した新しい学習環境を開発しました

ページID:0070116 掲載日:2025年1月16日更新 印刷ページ表示

 愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1IV期」を2022年度から実施しています。

 この度、「プロジェクトDX※2」の研究テーマ「〈弱いロボット〉概念に基づく学習環境のデザインと社会実装※3」において、豊橋技術科学大学(豊橋市)の岡田 美智男(おかだみちお)教授、株式会社ヒミカ(豊橋市)、株式会社ICD-LAB(アイシーディーラボ)(豊橋市)等の研究グループが、〈弱いロボット〉の特質を生かし、子供たちの優しさ、意欲、協調性などを引き出す仕掛けづくりとして、新たな学習環境を開発しました。

 開発した学習環境では、(1)ロボットと共に生活しながら、ロボットと子供たちとが相互に成長していく共生型学習環境、(2)お互いの「弱さ」を補完し合いながら、タブレット上の穴埋め問題に取り組む協働的学習環境などにより、従来の教材学習では実現できない子供たちの「優しさ」、「意欲」、「協調性」などを育むことができます。

 今後は学習環境の実証実験を繰り返し、社会実装に向けてブラッシュアップを重ね、教育現場における活用を目指していきます。

 

1 開発の背景

 近年、デジタル技術を活用した「革新的教育技法(EdTech(エドテック))」が世界の教育現場を変革しつつあり、国内では経済産業省も令和の教育改革に向けた「未来の教室ビジョン※4」を公表し​​ています。また教育サービス事業者においては、「AIドリル※5」と呼ばれる小中学校向けの多​様な学習教材を提供し、​子供の習熟度に応じた学習環境として​​普及させています。

 しかしEdTechは、AIドリルや脳トレ※6など、子供の教科用学習教材の開発に注力しているため、本来子供たち同士の関わりの中で育まれる、優しさや共感性、意欲、自己肯定感、協調性の育成は困難でした。

 そこで本研究プロジェクトでは、子供たちとの豊かな関わりを引き出すことの可能な〈弱いロボット〉に着目しました。その代表例である〈ゴミ箱ロボット〉は、自らではゴミを拾えないものの、周りの子供たちの手助けを上手に引き出しながら、結果としてゴミを拾い集めることができます。一方で、手助けした子供たちも有能感や達成感を覚え、ウェルビーイング(=自らの能力が十分に生かされ、生き生きとした幸せな状態)を向上させます。このように〈弱いロボット〉が有する「弱さ」「不完全さ」は、周りの子供たちの優しさや強み、新たな工夫や学びを引き出すことに加え、その関わりの中でウェルビーイングを生み出す等の性質を備えています。本プロジェクトでは、これら〈弱いロボット〉の特質を生かし、上記課題解決に向けた新たな学習環境のデザイン・構築とその社会実装を進めました。 

 

2 開発の概要

(1)共生型STEAM(スチーム)学習※7ための〈弱いロボット〉の開発(図1)

 人工木材MDFやブロックプログラミング言語を用いて、子供たちの手でロボットを作り上げ、プログラミングするだけでなく、一緒に生活しながら、ふるまいを工夫し、ロボットと子供たちとが相互に成長していく、​共生型STEAM学習環境の​〈Toi〉(図1)の開発を行い、実証研究として小学校等でワークショップを実施しました。

 グループワークにおけるロボット開発により、お互いに助け合いながら目標達成へ導くような道筋を経験したり、各グループでのアイディアや工夫を参考に、自らのグループのロボットを成長させるなど、創造性や共感性、協調性を育むための学習環境を提供するものとなりました。今後、小中学校、高等学校等におけるSTEAM学習教材やモノづくり教育、プログラミング教育のための教材としての活用が期待できます。

図1

図1 共生型STEAM学習のための弱いロボット〈Toi〉

 

(2)協働的な学びの場を生み出す〈弱いロボット〉の開発(図2)

 子供と〈PoKeBo〉たちがお互いの「弱さ」を補完し合いながら、タブレット上の穴埋め問​題に取り組む協働的学習環境〈PoKeBo Cube〉(図2)、プログラミング言語Scratch※8や生成AIを用いて、〈PoKeBo〉たちのおしゃべりや動作をデザインする共構築型学習環境 〈PoKeBoStudio〉を開発しました。 

 従来のタブレットを用いた家庭学習では、ドリルの穴埋め問題に解答し、その正誤を確認するだけでしたが、〈PoKeBo Cube〉では、他の〈PoKeBo〉を手助けしながら解答することで、自己肯定感を高めるとともに自らの学びを深めたり、生成AIの働きによって不足する知識を補完してもらうなど、子供と〈PoKeBo〉たちとの間で、お互いの「弱さ」を補いつつ、その「強み」を引き出し合うような協働的な学習環境を実現することができます。​

図2

図2 協働的な学びの場を生み出す〈PoKeBo Cube〉

 

(3)子供と教師などをつなぐ〈ソーシャルメディエータ型ロボット〉の開発(図3)

 小学校の教室や療育の場での利用を意図して、子供たちに昔話を語り聞かせようとするも、時々大切な言葉を物忘れしてしまう〈Talking-Bones〉(図3)などを開発しました。

 これらのロボット開発により、教室の中での教師と子供たちとの議論を活発化させ、子供たちの学びを深めたり、療育の現場などで、コミュニケーションや発達につまずきのある子供と療育士との間を媒介するロボットとして、今後様々なコミュニケーション支援、療育支援の領域での活用が期待できます。

図3

図3 ソーシャルメディエータ型のロボット〈Talking-Bones〉

 

3 日本科学未来館での展示

 2025年2月、本プロジェクトで開発した成果を中心に、日本科学未来館(東京都)において、ロボットの展示及びデモを行います。また、本プロジェクトの研究成果の概要を紹介するミニ・シンポジウムなどを予定しています。

(1)日時
      2025年2月1日(土曜日) 午後1時から午後5時まで
                  2月2日(日曜日) 午前10時から午後4時30分まで

(2)場所
        日本科学未来館 7F コンファレンスルーム 水星・火星・金星 
        (〒135-0064 東京都江東区青海2丁目3番6号)

        問合せ先
​         豊橋技術科学大学 岡田美智男 Email: okada@tut.jp、電話番号:0532-44-6886

(3)展示ロボット
     これまで試作した数十種類の〈弱いロボット〉を展示予定

                           

4 期待される成果と今後の展開

 本研究プロジェクトでは、〈弱いロボット〉の特質を生かしながら、「未来の教室ビジョン」​等に資する、新たな学習環境のデザインと構築を進めてきました。「学びのSTEAM化」に向け​た共生型STEAM学習のためのロボット教材〈Toi〉は、小学校等のモノづくり教育、プログラ​ミング教育に活用できるものです。また、「学びの自立化・個別最適化」に向けた学習環境​〈PoKeBo Cube〉及び〈PoKeBo Studio〉は、公教育の現場だけではなく、各家庭や幼稚園等​での活用も期待できます。さらに「新たな基盤づくり」に向けたソーシャルメディエータ型ロボットの〈Talking-Bones〉は、小学校や養護施設等での広範な活用が期待できます。

 今後は、教育現場でのワークショップや実証実験を通して、本プロジェクトで開発されたロボットや学習環境をさらにブラッシュアップし、社会実装(教育現場への販売等)を目指していきます。

 

5 社会・県内産業・県民への貢献

社会への貢献

教育現場において、従来の教材学習ではカバーできていなかった領域(子供たちの優しさ、意欲、協調性など)を引き出す学習環境を実現できる。

県内産業への貢献

県内の教育関係の企業と早期に取り組むことにより、本学習環境の特徴を理解し、県外よりもリードして事業化できる。

県民への貢献

愛知県の教育現場等において、子供たちの優しさ、意欲、協調性などを引き出す環境を実現できる。先行して県内で実証実験を行うことにより、本学習環境の特徴及び利点がより早期に理解できる。それにより、県への導入もスムーズに実行でき、教育現場での実施も早期に可能になる。

                                     

6 問合せ先

【重点研究プロジェクト全体に関すること】

あいち産業科学技術総合センター 企画連携部企画室
 担当:日渡、佐藤、村上
 所在地:豊田市八草町秋合1267番1
 電話:0561-76-8306

 

公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
 担当:佐野、安藤、金田
 所在地:豊田市八草町秋合1267番1
 メール:juten-dx@astf.or.jp
 電話:0561-76-8370 (*原則、メールにてお問合せ下さい)

 

【本開発内容に関すること】

(技術関連)
  国立大学法人豊橋技術科学大学 情報・知能工学系
   担当:岡田 美智男
   所在地:豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
   電話:0532-44-6886

 

【用語説明】

※1  知の拠点あいち重点研究プロジェクト

 付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクトIII期」を実施した。2022年8月からは「重点研究プロジェクトIV期」を実施しています。

 

「重点研究プロジェクトIV期」の概要

実施期間

2022年度から2024年度まで

参画機関

16大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社)

(2024 年12月時点)

プロジェクト名

・プロジェクトCore Industry

・プロジェクトDX

・プロジェクトSDGs

 

※2 プロジェクトDX

研究テーマ

【研究開発分野】デジタルテクノロジー・ICT

D1 モノづくり現場の試作レス化/DXを加速するトライボCAE開発

D2 DXと小型工作機械が織り成す機械加工工場の省エネ改革

D3 MIをローカルに活用した生産プロセスのデジタル革新

D4 IT・AI技術を結集したスマートホスピタルの実現
【研究開発分野】ロボティクス

D5 繊維産業に於けるAI自動検査システムの構築に関する研究開発

D6 〈弱いロボット〉概念に基づく学習環境のデザインと社会実装

D7 愛知農業を維持継続するための農作業軽労化汎用機械の開発と普及
【研究開発分野】自動車・航空宇宙等機械システム(ソフト)

D8 自動運転技術のスマートシティへの応用

D9 自動運転サービスを実現する安全性確保技術の開発と実証

参画機関

7大学 4研究開発機関等 30社(うち中小企業19社)(2024年12月時点)

 

 

 

※3 〈弱いロボット〉概念に基づく学習環境のデザインと社会実装

研究リーダー

豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 教授 岡田 美智男 氏

事業化リーダー

株式会社ヒミカ 尾崎 逸男(おざきいつお) 氏

株式会社ICD‐LAB 長谷川 孔明(はせがわこうめい) 氏

参加機関

〔大学〕豊橋技術科学大学、愛知淑徳大学

〔企業〕株式会社ヒミカ、株式会社ICD‐LAB

内容

近年、デジタル技術を活用した「革新的教育技法(EdTech)」が世界の教育現場を変革しつつあり、国内では経済産業省も令和の教育改革に向けた「未来の教室ビジョン」を公表している。

従来型EdTechは、AIドリルや脳トレなど、学習者の「認知能力」を育むことに注力しているが、幼児教育や初等教育分野では共感性や思いやり、意欲、協調性など「非認知能力(non-cognitive skill)」を伸ばすアクティビティが重要とされる。

そのために〈弱いロボット〉の特質を生かし、従来型EdTechではカバーできていなかった、子供たちの「非認知能力」を育み・賦活する学習支援プログラムの開発・社会実装を学習科学や発達心理学、ロボット技術者、教育事業者などと協働で進めている。

具体的には、(a)デザイン思考や非認知能力を育む「共生型STEAM学習用ロボット」、 (b)個別最適で協働的な学びを生みだす「多人数会話型ロボット」、(c)教室や療育の場で子供と教師(療育士)をつなぎ、非認知能力を育む「ソーシャルメディエータ型ロボット」の3タイプの〈弱いロボット〉とその学習支援プログラムの開発を目指す。

 

※4 未来の教室ビジョン

 目指すべき「未来の教室」の実現に向けた柱として、「学びの STEAM 化」「学びの自立化・

個別最適化」「新しい学習基盤づくり」の三つのビジョンを掲げる。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mirai_kyoshitsu/pdf/20190625_report.pdf

 本研究プロジェクトでは、(1)子供たちの「学びのSTEAM化」にむけて、人工木材MDFや

小型のCPUボードを利用し、簡単に組み立て可能、かつブロックプログラミング言語でロ

ボットのふるまいをデザインできる、共生型STEAM学習のための〈弱いロボット〉の開発

を行っている。

 また、(2)子供たちの「学びの自立化・個別最適化」にむけて、多人数会話型コミュニケー

ションロボット〈PoKeBo〉などを用いた、協働的な学びの場を生み出す、三つのタイプの

学習環境の開発を行っている。

 さらに、(3) 小学校の教室や療育の場における「新たな学習基盤」として、子供と教師

との間をつないだり、発達につまずきのある子供のコミュニケーション機能を補う〈ソー

シャルメディエータ型ロボット〉の開発を進めている。

 

※5 AIドリル

 AIドリルは、AI技術を用いて個別化された学習を提供する教育ツールである。リアルタ

イムフィードバックや多様な問題形式で効果的な学習を支援する。

 

※6 脳トレ

 子供向けの脳トレは、楽しみながら認知機能を鍛えるための活動である。パズルゲーム、

記憶ゲーム、読み書き、音楽ゲームなどを通じて、学びと遊びを両立させることができる。

 

※7 共生型STEAM学習

 学びのSTEAM化にむけて、子供たちが自分たちの創意工夫の中で、新たな〈弱いロボッ

ト〉を創り出し・育て・一緒に世話をしながら生活する〈共生型STEAM学習環境〉の開発

を進めている。この学習プログラムは、デザイン思考・論理的思考に加え、共感、思いや

り、協調性など非認知能力を引き出し・育むことを目的に設計されている。

 STEAM教育とは、「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術・

リベラルアーツ(Art)」「数学(Mathematics)」の5つの分野を統合的に学ぶ教育のこと。

 

※8 プログラミング言語Scratch

 主にマウスを操作してプログラミングする“ビジュアルプログラミング言語”の一つで

ある。そのため、キーボードを使うタイピングに不慣れな子どもやパソコン初心者でもプ

ログラミング学習に取り組むことができる。

 

このページに関する問合せ先

​あいち産業科学技術総合センター企画連携部
企画室(担当:日渡、佐藤、村上)
豊田市八草町秋合1267-1
電話:0561-76-8306​

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