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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」革新的放熱素材「Thermalnite(サーマルナイト)」で小型電動車両の性能向上に成功!~実証実験とシミュレーションにより検証しました~

ページID:0566753 掲載日:2025年2月12日更新 印刷ページ表示

 愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)では、産学行政連携のプロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1IV期」を2022年度から実施しています。

 この度、「プロジェクトCore Industry(コア インダストリー)※2」の研究テーマ「超高効率エレクトロニクスを実現するMBD(エムビーディー)※3と融合した革新的素材開発※4」において、株式会社U-MAP(ユ-マップ)(名古屋市千種区)、AZAPA(アザパ)株式会社(名古屋市中区)などの研究チームは、小型電動車両メーカーのFuture(フューチャー)株式会社(東京都港区)の協力のもと、革新的放熱素材「Thermalnite」(ファイバー状窒化アルミニウム単結晶)の小型電動車両(バイク)のインバーター※5への適用効果の実証実験を実施しました。また、車両の消費エネルギーやパーツの温度変動を推定する電動車両シミュレーターを開発しました。

 上記の実証実験のデータと電動車両シミュレーターを用いることにより、「Thermalnite」を用いた放熱部材を既存品のインバーターに適用すれば電力密度(kW/L)を約1.5倍向上できることが分かりました。また、電動車両シミュレーターを用いることにより、車両パーツの構造と材料物性値から、車両走行性能が推定できることも確認しました。

 熱問題を抱える電動車両において、開発の加速化と放熱材料による車両性能の向上を実現することにつながり、熱問題の解決により持続可能な未来社会への貢献が期待されます。

1 開発の背景

 電子機器は常に熱との戦いを強いられており、放熱性が製品の性能やエネルギー効率に大きく影響します。このため、熱伝導性に優れた放熱材料と共に適切な放熱設計が要求されます。これまで株式会社U-MAPでは、電子機器への適用を目指し、独自に開発したファイバー状の放熱素材「Thermalnite」をセラミックス基板や樹脂シートに添加し、熱伝導性と機械的強度を併せ持つ放熱部材の開発を行ってきました。その結果、従来品を大きく上回る性能を実現することに成功しました。一方、放熱設計は材料特性に応じた構造設計が必要となりますが、これまでの構造設計では材料特性の強みを十分に生かすことができていませんでした。

 本プロジェクトは、高性能放熱材料と最適な構造設計を融合させることで、この課題を解消し、電子機器の性能向上を目指してきました。具体的には、小型電動モビリティのインバーターに「Thermalnite」を添加した高熱伝導性の放熱シートを搭載し、放熱性の改善効果を検証すると共に車両のエネルギーや温度を推定する電動車両シミュレーターを開発しました。

2 開発の概要

 図1に本プロジェクトで開発した高熱伝導性の放熱シートの写真を示します。このシートは、「Thermalnite」を添加したシリコーンゴムであり、従来の放熱性樹脂に比べて優れた熱伝導性(熱伝導度5W/mK)と高い機械強度(従来比4倍)を併せ持ち、0.1mmという極薄型であっても強度を保ちながら優れた放熱性能を示します。

放熱シート

図1 「Thermalnite」を添加したシリコーンゴム製放熱シート

 

 従来の小型電動車両では、インバーターを構成するパワー半導体※6と放熱板の接合部にポリイミドフィルム(熱伝導率0.3W/mK)が用いられていますが、今回、この部分を図1の放熱シートに置き換えることにより放熱性改善を図りました(図2)。提携先のFuture株式会社製の車両を使用して、既製品車両とインバーターに放熱シートを搭載した車両を同時走行させ、走行時のインバーター内のパワー半導体の温度を計測することにより放熱性を比較しました。その結果、放熱シートによるパワー半導体の温度上昇抑制が確認されました。

実験車両

図2 実験車両の写真(Future株式会社製board2)及びインバーターの内部構造

 

 また、並行して車両のインバーターのパワー半導体の温度や消費エネルギーを推定する電動車両シミュレーターを開発し、パワー半導体の温度変動シミュレーション結果が実測値を高精度に再現することを確認しました(図3)。

実測・シミュレーションとの比較

図3 小型電動車両走行時のインバーター内のパワー半導体の温度変動の実測値とシミュレーション結果の比較

 

 上記の走行実験データとシミュレーションを用いて、既成品車両と「Termalnite」適用車両に呈してインバーターの電力密度(kW/)とパワー半導体温度の関係をシミュレーションした結果、図4に示すよう、パワー半導体が正常動作する限界温度(150°C)に達するインバーター電力密度が、「Termalnite」適用車両では既製品車両の1.5倍に並行して車両のインバーターのパワー半導体の温度や消費エネルギーを推定する電動車両シミュレーターを開発し、パワー半導体の温度変動シミュレーション結果が実測値を高精度に再現することを確認しました(図3)。

シミュレーション結果

図4 既製品車両と「Termalnite」適用車両のインバーターの電力密度とパワー半導体温度の関係

(シミュレーション結果)

3 期待される成果と今後の展開

 本技術は、熱問題を抱える電動車両において、開発スピードの加速と放熱材料による車両性能の向上を実現することにつながる他、電動車両における熱問題の解決を通じて、持続可能な未来社会への貢献が期待されます。

 また、「Thermalnite」の更なる性能向上や多様な材料への適用を進めることで、車両に限らず、広くエレクトロニクスの性能向上やエネルギー効率を高める新しい製品設計が可能となります。特に、環境に優しいモビリティ技術の普及を促進し、地球規模の温室効果ガス削減やエネルギー資源の有効活用に寄与することが期待されます。さらに、次世代電動モビリティや大型輸送システムへの応用により、都市部のスマート化や持続可能な交通インフラの実現を支援する革新技術としても期待されます。​

4 社会・県内産業・県民への貢献

 

社会への貢献

冷却コスト削減による省エネを通じたカーボンニュートラル社会の実現。

県内産業への貢献

愛知県内の高い技術力を持つ材料産業のさらなる高付加価値化に貢献。

県民への貢献

電動車両の性能向上により、県民の豊かなモビリティライフに貢献。

 

5 問合せ先 

【重点研究プロジェクト全体に関すること】

・あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
担当:佐藤、日渡、村上
所在地:豊田市八草町秋合(やくさちょう あきあい)1267番1
TEL:0561-76-8306

・公益財団法人科学技術交流財団​ 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:新庄、吉田、村瀬
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
TEL:0561-76-8360

 

【本開発内容に関すること】

(放熱材料に関すること)

株式会社U-MAP
担当:西谷 健治(にしたに けんじ)
所在地:〒464-8601愛知県名古屋市千種区不老町

Tokai Open Innovation Complex(TOIC)

6階産学連携オープンラボ601

電話:052-783-0310

(実証試験、シミュレーションに関すること) 
AZAPA株式会社
担当:林 真人(はやし まさと)
所在地:〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦二丁目4番15号

ORE錦二丁目ビル3F

TEL:052-221-7350

【用語説明】

※1  知の拠点あいち重点研究プロジェクト

 高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクトIII期」を実施し、2022年8月から「重点研究プロジェクトIV期」を実施しています。

「重点研究プロジェクトIV期」の概要

実施期間

2022年度から2024年度まで

参画機関

16大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社)

(2024年月12時点)

プロジェクト名

・プロジェクトCore Industry

・プロジェクトDX

・プロジェクトSDGs

 

※2 プロジェクトCore Industry

 

概要

世界を牽引して未来を創りつづける愛知の基幹産業の更なる高度化に資する技術開発に取組む。

研究テーマ

【研究開発分野】自動車・航空宇宙等機械システム(ハード)

1 スマートファクトリーの完全ワイヤレス化に向けた非接触電力伝送

2 超高効率エレクトロニクスを実現するMBDと融合した革新的素材開発

【研究開発分野】高効率加工・3Dプリンティング

3 金属3D造形技術CF-HMの進化による航空機部品製造用大型ジグの革新

4 積層造形技術の深化によるモノづくり分野での価値創造とイノベーション創出

【研究開発分野】次世代材料・分析評価

5 塗膜/外用剤の次世代分子デザインに向けた3次元可視化法の確立

6 カーボンニュートラル社会実現に向けた先端可視化計測基盤の構築

7 人工シデロフォア技術を用いた大腸菌群検出技術・装置の開発

8 高機能複合材料CFRPの繊維リサイクル技術開発と有効利用法

9 ナノ中空粒子を用いた環境対応建材の研究開発

参画機関

7大学 3研究開発機関等 35社(うち中小企業22社)(2024年12月時点)

 

※3 MBD

 「Model Based Development」の略で、日本語では「モデルベース開発」と訳されています。システムを構築する制御や制御対象をモデル化し、シミュレーションすることで、検証を行いながら設計開発を進めていく手法です。

 

※4 超高効率エレクトロニクスを実現するMBDと融合した革新的素材開発

 

概要

U-MAPの独自技術である繊維状窒化アルミニウム単結晶(Thermalnite)を用いた高熱伝導放熱シートを小型電動車両のインバーターに適用し、放熱性能の向上を実機検証する。また、材料の熱物性と構造から電動車両の性能を推定するシミュレーターを開発する。

研究リーダー

株式会社U-MAP 代表取締役 西谷 健治 氏

事業化リーダー

AZAPA株式会社 PM 市原 純一(いちはら じゅんいち) 氏

参加機関

(五十音順)

〔企業〕

株式会社U-MAP(名古屋市千種区)

AZAPA株式会社(名古屋市中区)

〔大学〕

国立大学法人東海国立大学機構(名古屋市千種区)

〔公的研究機関〕

あいち産業科学技術総合センター(豊田市)、

公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)

 

※5 インバーター

 直流を交流に変換する装置。家電製品、電動車両、産業機械など、幅広い分野で使用されています。電動車両ではバッテリーの電力(直流)を交流に変換してモーターを駆動するために使用されます。

 

※6 パワー半導体

 モーターや照明などの制御や電力の変換を行う半導体です。扱う電圧や電流が大きいことが特徴です。

 

※7 ポリイミドフィルム

 耐熱性に優れ、寸法変化の低い高機能性フィルムです。一般的な電気機器から使用環境が過酷となる航空宇宙分野でも用いられる材料です。

このページに関する問合せ先

​あいち産業科学技術総合センター企画連携部
企画室(担当:佐藤、日渡、村上)
豊田市八草町秋合1267-1
電話:0561-76-8306​