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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトV期」 未利用温室で珪藻の大量培養を実証 ~新たな農業ビジネスモデルの実現へ~
愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)は、本県産業が抱える主要な技術的課題の解決を目指して、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト(※1) V期」を2025年度から実施しています。
このうち、研究分野「アグリ・フィッシュ」の研究テーマ「農地を活用した藻類事業の実現に向けた培養技術の開発と機能性試験」では、豊橋技術科学大学の広瀬侑(ひろせ ゆう)准教授を研究リーダーとする合同会社サイナルジ(豊橋市)、株式会社Seed Bank(シードバンク)(京都市)、京都大学、北海道大学の研究グループが強酸性環境で生育できる珪藻(けいそう)(※2)「ピンヌラリア(※3)」に着目し、屋外での培養に適した大量培養装置の開発に取り組んでいます。
微細藻類の一種である珪藻は、食品・餌料・エネルギーなど幅広い用途が期待される一方、屋外環境で安定的に大量培養することが難しく、実用化に向けた大きな課題となっていました。
この度、珪藻の大量培養装置の本格稼働に併せて、農業用温室で実施する実証実験の様子を合同会社サイナルジの実証試験温室で報道機関向けに公開しますのでお知らせします。
本実験では、将来の事業化を見据え、一温室当たり年間100kg以上の珪藻の生産を目標としています。
今後、本研究の成果により、未利用となっている施設園芸用温室を高付加価値な微細藻類の生産拠点として活用する新たなビジネスモデルを構築し、農業の高付加価値化や地域産業の活性化につながることが期待されます。
1 開発の背景
微細藻類とは、肉眼では見えないほど小さく、光合成を行う藻類の総称です。クロレラやスピルリナ、ユーグレナなど、多様な微細藻類は健康食品や食品、化粧品などに既に利用されています。一方、微細藻類の一種である珪藻は、抗肥満作用が報告されているフコキサンチン(※4)や、健康維持に欠かせないオメガ3脂肪酸(※5)などの有用成分を蓄積することから、注目を集めています。しかし、これまでは安定的かつ低コストで大量培養する技術が十分に確立されておらず、安定供給が難しいため、幅広い産業利用には至っていませんでした。
豊橋技術科学大学の広瀬侑准教授らの研究グループは、強酸性条件下で生育できる珪藻「ピンヌラリア」(関連技術は2022年に特許出願)に着目し(図1)、屋外での培養に適した大量培養技術の開発・実証に取り組むことで、この課題の解決を目指しています。


図1 ピンヌラリアの顕微鏡写真(左)および抽出したフコキサンチン溶液(右)
2 開発の概要
藻類の大量培養には、円形水槽やレースウェイと呼ばれる水を循環させるタイプや、ガラス管を層状に重ねたタイプなどがよく使われてきました。前者は、生産効率は低いものの広大な土地を利用して生産量を確保することができ、後者は、培養環境を厳密に制御することで、高い生産効率を実現することができます。
本研究では、両者の利点を兼ね備えた新たな培養方法として、交換可能な透明なプラスチックバッグを用いた珪藻培養装置を開発しました(図2)。透明なバッグを使用することで、太陽光を培養液中の珪藻へ効率よく届けることができます。また、バッグ内には通気ポンプで常時空気を送り込み、培養液を攪拌(かくはん)することで、珪藻のバッグ内面への付着を防ぐとともに、光を均一に当てることができ、光合成に必要な二酸化炭素を供給しています。
本培養システムは、ブロックやパイプなどの建築資材を組み合わせた架台を開発することで、従来の培養装置と比較して導入コストの削減を実現しています。さらに、コンクリートなどで舗装した地面に限らず、例えば防草シートで覆った農地にも設置できるため、既存の施設園芸用温室を活用した培養システムとして利用できる点も、本装置の特徴です。
これまでの屋外における珪藻の培養では、珪藻を捕食するアメーバ等の微生物の混入により、生産性が低下することが問題となっていました。本培養システムは、この問題を解決するために強酸性培地を使用します。強酸性という特殊な環境では、ピンヌラリアは増殖できますが、中性付近を好む多くの微生物は繁殖できません。そのため、外部から混入する微生物の影響を抑えながら、ピンヌラリアのみを安定して培養することができます。
このような強酸性培地を利用した珪藻の大量培養は、世界初(研究グループ調べ)の先進的な取組であり、公開実験ではその現場を御覧いただけます。
実際の農地に設置された温室では、温度や湿度、日射量が季節や天候によって変化するため、実験室のように培養環境を一定に保つことはできません。本研究では、このような環境下でも年間を通じて安定した培養を実現することを目指し、珪藻の生産性向上に必要な培養条件や運転技術の開発を進めています。また、生産した珪藻細胞を動物に与える試験を実施し、その機能性についても評価していく予定です。

図2 珪藻大量培養装置の外観写真
3 公開実験(報道機関向け)
4 期待される成果と今後の展開
今後は、農業用温室の環境に適した高生産性の珪藻株を探索するとともに、実証実験を重ねることで、一温室当たり年間100kg以上の珪藻生産を目指します。食品、健康食品、餌料、機能性素材、エネルギー分野などへの活用が期待される珪藻を安定的に生産することで、県内の幅広い産業に新たな事業機会の創出が期待されます。また、本技術は国内での普及に加え、将来的には海外での事業展開も期待されます。
5 県内産業への貢献
農林水産省「園芸用施設の設置等の状況(2024年)」によれば、全国の園芸用施設(ガラス室・ハウス)の設置実面積は近年減少傾向にあります。また、愛知県園芸農産課「施設園芸の振興について」(2026年1月23日更新)によれば、施設の老朽化や担い手不足などを背景に、県内の園芸用施設の設置面積も2003年をピークに減少傾向にあります。本テーマの主たる研究拠点(豊橋技術科学大学・合同会社サイナルジ)がある豊橋市内には、農作物の栽培に利用されていない未利用温室が数多く存在しています。本研究チームでは、これらの未利用温室を活用した新たな産業の創出を目指して研究開発を進めています(図3)。
本研究で開発する大量培養装置をこれらの未利用温室に導入することで、既存施設を有効活用し、フコキサンチンやオメガ3脂肪酸などの高付加価値な有用成分を含む珪藻の生産による新たな収益機会の創出が期待されます。さらに、施設園芸農家等の新たな収益源の確保や地域における雇用の創出につながるとともに、既存の温室を活用した微細藻類生産という新たなビジネスモデルの実証・展開を通じて、施設園芸農業の新たな展開を促し、愛知県の施設園芸農業の発展に貢献することが期待されます。

未利用温室(豊橋市内) 藻類培養温室
図3 本研究のねらい(イメージ)
6 問合せ先
【重点研究プロジェクト全体に関すること】
・愛知県経済産業局産業部 産業科学技術課科学技術グループ
(1)担当:吉富、水野、佐藤
(2)電話:052-954-6351
・公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
(1)担当:山口、田草川、金田
(2)所在地:豊田市八草町秋合1267番1
(3)電話:0561-76-8380
(4)FAX:0561−21−1653
【本開発内容に関する問合せ先】
・国立大学法人豊橋技術科学大学 大学院工学研究科 応用化学・生命工学系
(1)担当:准教授 広瀬 侑
(2)所在地:豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
(3)電話:0532-44-6906
・合同会社サイナルジ
(1)担当:代表社員 広瀬 侑
(2)所在地:豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
(3)電話:050-3644-0205
【用語説明】
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト
付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011 年度から 2015 年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016 年度から 2018 年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019 年度から 2021 年度まで「重点研究プロジェクトIII期」、2022 年度から 2024 年度まで「重点研究プロジェクトIV期」を実施し、2025 年度から「重点研究プロジェクトV期」を実施している。
(「知の拠点あいち重点研究プロジェクト」Web サイト)
https://www.astf-kha.jp/project/
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目的 |
愛知県の主要産業が抱える技術的課題の解決を目指し、産学行政が連携して研究開発を推進。生成AIやビッグデータ等のデジタル技術を活用し、革新的イノベーションの創出と脱炭素社会の実現に貢献。 |
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研究枠 |
(1)実用枠 (2)挑戦枠 (3)国際枠 |
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研究分野 |
・マニュファクチャリング(次世代モビリティ、ロボット等) |
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研究テーマ数及び参画機関数 |
・研究テーマ数:計18件 |
| 分野・テーマ |
〔アグリ・フィッシュ分野〕 |
※2 珪藻
単細胞の微細藻類(顕微鏡でなければ見えないほど小さな藻類)。海や川などに広く生息し、一部の種類は機能性成分であるフコキサンチンを高濃度に蓄積することから、食品や餌料などへの活用が期待されている。
※3 ピンヌラリア
珪藻の一種(ピンヌラリア属)で、多くの珪藻が中性から弱アルカリ性(pH 6~9程度)で良好に生育するのに対し、本研究で用いる株は、淡水・強酸性(pH 2~4程度)といった極限環境でも生育できる特徴を持っている。一般的な微細藻類や細菌、原生動物などの生育が抑えられる環境で培養できるため、他の生物の混入による影響を受けにくく、屋外での大量培養に適している。
※4 フコキサンチン
ワカメやコンブに含まれるオレンジ色の天然色素。抗肥満作用をはじめとするさまざまな生理活性が報告されており、食品や健康分野で利用が期待される機能性素材として注目されている。
※5 オメガ3脂肪酸
珪藻などの藻類や魚に多く含まれる不飽和脂肪酸の一種。体内で十分につくることができない脂肪酸であり、血液中の中性脂肪を低下させる作用や心血管の健康維持など、さまざまな生理作用が報告されている。食品や健康分野で利用される機能性素材として注目されている。
このページに関する問合せ先
愛知県経済産業局産業部産業科学技術課
科学技術グループ
担当:吉富、水野、佐藤
電話:052-954-6351
メール:san-kagi@pref.aichi.lg.jp

