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重症てんかん発症の仕組みを解明しました

ページID:0551017 掲載日:2024年12月16日更新 印刷ページ表示

 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所(春日井市)の浅井真人部長と飯田真智子主任研究員を中心とする共同研究グループ(以下、「研究グループ」という。)が、重症てんかん発症の仕組みを遺伝子組換えマウスを用いて解明しました。
 てんかんは、異常に多数の神経細胞が一斉に興奮してしまうことで身体のけいれんや意識消失を含む発作が繰り返しおこる脳の病気です。今回研究した重症てんかんは発達性てんかん性脳症の1つで遺伝性のものですが、その病気を遺伝子組換えで反映させた重症てんかんマウスが生後4週で死んでしまうため長期観察が出来ず、てんかんの原因は分からないままでした。
 この度、研究グループは、動物用介護食を独自に開発し、これまで困難だった重症てんかんマウスを健康なマウス並みに長生きさせることに成功しました。その結果、病気の原因は胎児のときに将来海馬(かいば)になる脳の部分に送り届けられるべき特殊な神経細胞が、細胞の移動する速度が遅いために届けられなかったことにあると特定しました。
 この成果は、重症てんかんの新治療法のマウスでのテストや、てんかん一般の仕組みの探索に活用される予定で、国際学術専誌”Epilepsia”に本日論文が掲載されることになりましたのでお知らせします。
 なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の助成を受け、新潟大学脳研究所、住友ファーマ株式会社、藤田医科大学、名古屋大学との共同で実施されたものです。

書籍情報等

掲載雑誌:Epilepsia (エピレプシア:脳医学研究雑誌)
ウェブ掲載DOI:10.1111/epi.18204
雑誌のWebページ:https://onlinelibrary.wiley.com/journal/15281167

1 研究員

愛知県医療療育総合センター発達障害研究所障害モデル研究部部長 浅井真人(あさい まさと)
愛知県医療療育総合センター発達障害研究所障害モデル研究部主任研究員 飯田真智子(いいだ まちこ)

以上2名を中心とする共同研究グループ

2 研究の背景

 てんかんは、異常に多数の神経細胞が一斉に興奮してしまうことで身体のけいれんや意識消失を含む発作を繰り返しおこる脳の病気です。てんかん患者は世界に約7,000万人おり、患者の約2割は薬をのんでも発作が十分には止まりません。
 てんかんの根本原因はよく分かっていませんが、遺伝的性質が影響するタイプがあります。研究グループは、癌細胞の周囲への広がりを促進するガーディンタンパク(※1)を無力化した遺伝子組換えマウス(以下「gKOマウス」という。) (図1)が幼児期に散発的なてんかんを発症する現象の研究を始めましたが、生後4週でマウスが死んでしまうため長期観察が出来ず、てんかんの原因は分からないままでした。

ガーディン遺伝子ノックアウトマウスの作製

 

 

 

 

 

 

3 研究の過程

 研究グループはgKOマウスの飼育法を工夫して、健康なマウス並みに長生きさせることに成功し(図2)、その結果猛烈なてんかんと海馬の破壊を発見しました(※2)(図3)。これにより、抗てんかん薬の薬効試験にも成功しました(図4)
 てんかんがおこる原因を探索するため、てんかんと関連が深い抑制神経(※3)に注目し、長生きしたgKOマウスの抑制神経を調査したところ、抑制神経の代表格であるパルブアルブミン陽性抑制神経(※4)が海馬に全くありませんでした。
 そこで、抑制神経が消失した時期を調べると、すでに胎児期には、将来海馬になる脳の部分に抑制神経になる細胞がなかったため、ガーディンタンパクを無力化させた抑制神経のもとの細胞が移動する速度が遅く、制限時間内(※5)に海馬に届かないことが原因だと仮説を立てました(図5)
 この仮説の証明をするために「条件付きノックアウト技術」(※6)を使って内側基底核原基(※7)でだけガーディンを無力化するマウスを作ったところ、当該マウスでも抑制神経が海馬に十分に届かず、てんかんと海馬の破壊が再現されました(図6)
 こうして、このマウスのてんかんの根本原因は、パルブアルブミン陽性抑制神経細胞のもとが胎児期に内側基底核原基から海馬に向かって移動できなかったことであると特定しました。

※1 ヒトにもマウスにもあるタンパク。癌細胞含む幼弱な細胞で発現し細胞の移動する速さに関連します。ただ移動する速さに関連する仕組みはよく分かっていません。

※2 乳幼児期にてんかんを発症し神経系の発達も悪かったことから、発達性てんかん性脳症と診断し、また、同時に脳が海馬を中心に壊れていたことから、内側側頭葉てんかんでもあると診断しました。

※3 脳内にある神経細胞全体の約2割を占め、周囲の神経の興奮を抑える役割を持ちます。

※4 抑制神経のなかで最も多い集団でパルブアルブミン(タンパクの1種)を発現します。

※5 生後数日から神経回路の形成が行われます。この回路形成のあとは抑制神経はうまく海馬に組み込まれません。

※6 体中のすべての細胞で遺伝子を無力化するグローバルノックアウト技術に対して、条件付きノックアウト技術は、特定の細胞集団でだけ遺伝子を無力化する技術を指します。Cre(クリー)という組換えタンパクとLoxP(ロックスピー)というDNA配列の組み合わせが最もよく使われます。

※7 胎児脳の深いところにある部分で、パルブアルブミン陽性抑制神経はここで生まれます。

生涯動物介護手法の開発

 

猛烈なてんかんの出現

 

抗てんかん薬創薬への貢献

 

細胞の足が遅くて期限内に海馬に届かなかったと仮説

 

てんかんの原因の発見

4 研究成果

 本研究により、ガーディン遺伝子無力化によるてんかんは胎児期に抑制神経のもとが海馬に向かって移動できなかったことが原因で発生したことが明らかになりました。

5 研究の意義

(1)本研究成果は、多くの重症てんかんの患者にとっての治療法開発のヒントになります。

(2)本研究で開発したマウスの大量のひきつけとスパイクのおかげで、ヒトに投与する前の薬の試験を実施できるようになりました。

6 掲載雑誌情報

【国際学術誌Epilepsia】

 てんかんのあらゆる側面に焦点を当てた臨床研究および基礎科学研究のための権威ある査読付き国際医学雑誌で、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy, ILAE)の機関誌である。インパクトファクター(学術雑誌を評価する目的で参照される数値)は6.6。これは神経内科分野の学術誌396誌中24位、神経科学分野の学術誌185誌中12位にランクされる。

掲載論文

Girdin deficiency causes developmental and epileptic encephalopathy with hippocampal sclerosis and interneuronopathy (海馬硬化と介在ニューロン障害を伴う発達性てんかん性脳症の原因となるガーディン欠損症)
飯田真智子、田中基樹、高木豪、松木亨、木村公鴻、柴田和輝、小林洋平、水谷友香、桑村悠季、山田桂太郎、北浦弘樹、柿田明美、榊原真弓、浅井直也、髙橋雅英、浅井真人
DOI:10.1111/epi.18204
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/epi.18204

このページに関する問合せ先

愛知県医療療育総合センター発達障害研究所
障害モデル研究部門
担当:浅井、飯田
電話:0568-88-0811