春待つ息吹。設楽町八橋ウバヒガン桜、川向(かわむき)のしだれ桃のお話し
設楽ダムの建設にあたり、水没などの理由によって、設楽町内の100世帯を超える住民の方々に移転をお願いせざるを得ず、その結果、八橋、川向(かわむき)、大名倉の3つの地区がその歴史に幕を下ろすこととなりました。
そうした中、豊川水系境川沿いの八橋地区では、2014年10月18日、旧八橋小学校において閉区式が執り行われ、思い出とともに集落から人が去ることとなりました。
この八橋の集落を見渡す高台に、樹齢124年のウバヒガン桜の大樹があります。幸いこのウバヒガン桜は水没を免れ、設楽ダムの完成後に、設楽町によって一帯が公園として整備される予定となっています。
私たちが訪れた3月30日。連日の陽気にウバヒガン桜は満開を迎えていました。
ウバヒガン桜のもとには、手作りのベンチが用意されていました。これは、旧八橋地区住民中心の有志が立ち上げた「八橋のウバヒガン桜を愛する会」の方々が、桜を観に来る人のために準備したもので、その他にも、年4回この場所に集まって下草刈りをされているとのことです。
また、例年であれば、ウバヒガン桜が満開となる頃、移転により集落を離れた旧八橋地区住民を招いて観桜会(かんおうかい)を開催しているとのことでしたが、昨年、今年と新型コロナウイルス感染拡大防止のため開催を断念せざるを得なかったとのことでした。
私たちが訪れた日、旧八橋地区住民の方がお二人、桜を観にいらしており、私たちに炊き込みご飯のおにぎりをくださいました。
「桜の季節、ここに来たら旧八橋地区の誰かに会えるから、一緒に食べられるように沢山作ってきたの」とお話しくださいました。
来年は、コロナ禍が治まり、樹齢125年のウバヒガン桜の下、旧八橋地区住民の方々が観桜会で再会できることを暖かな春の空に祈念しております。
国道257号つづら折りの坂に沿った集落、川向(かわむき)地区は、かつて、数百本のしだれ桃が咲き誇る「しだれ桃の里」として、毎年4月上旬には多くの人が訪れていましたが、現在は、住民の方も全て移転され、残るしだれ桃もいずれはダムの湖底に沈むこととなります。
※川向地区の閉区式は、2013年3月31日に執り行われています。
そうした中、元川向区長の伊藤怜(さとし)さんは、水没するしだれ桃の遺伝子を次世代へと継承していくため、自ら育てたしだれ桃から種を採取して、育苗講習会などを通じて、しだれ桃を育ててくれる方に種を配付する取り組みをされています。
また、設楽ダム完成後、設楽町によって旧川向地区に整備される公園には、この遺伝子を受け継いだしだれ桃が植樹されるとのことです。
昨年の秋に種をいただき自宅で栽培してみたところ、この春、ひとつだけですが芽が出ました。固い殻を破って顔を出したこの小さな芽が、いつか大きく育ち、設楽町に里帰りさせることができたらいいなと思います。