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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期」リチウムイオン電池用の新材料及び電池寿命評価システムを開発しました

ページID:0379276 掲載日:2022年2月2日更新 印刷ページ表示

 愛知県と公益財団法人科学技術交流財団では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期※1」を2019年度から実施しています。

 この度、「先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト※2」の「二次電池※3の材料開発/寿命評価用データベース構築とAI/IoT応用※4」において、名古屋大学の渡部 孝(わたなべ たかし)特任教授らの研究チームは、データ数4万を超える炭素材料の物性データベースを構築し、それに基づくAIによる選別・評価から、導電性に優れ、電池寿命を延ばす効果のあるリチウムイオン電池用の導電材料の開発に成功しました。また、電池180個の試作と、各々4,000回に及ぶ充放電サイクル試験の充放電特性評価から約1万5,000の特性データによるデータベースを構築し、IoTを併用するリアルタイム・オンライン二次電池寿命評価システムを開発しました。これら二つの成果は、蓄電池の寿命向上に大いに貢献する技術です。

 新たに開発した導電材料は、2021年度内に株式会社名城ナノカーボン(名古屋市守山区)が販売を開始する予定です。また、二次電池寿命評価システムは、河村電器産業株式会社(瀬戸市)がシステムの製品化及び評価サービスの運用を予定しています。

1 開発の背景

 化石燃料から自然エネルギーへの転換によるCO2削減を加速するためには、蓄電技術が不可欠で、電池需要の拡大が見込まれます。また、電気自動車において現在主流となっているリチウムイオン電池は、その急速な普及による需要の増大により、リチウムやコバルト等の資源不足による電池の供給不足が懸念されています。そのため、リチウムイオン電池の性能向上による必要電池数の低減や省資源化は急務の課題です。

 この問題の解決につながる1つの方法として、電池の充放電サイクル寿命に着目し、それを延ばす効果のある新材料の開発と、正確で簡便なサイクル寿命評価システムの開発を目指しました。

2 開発の概要

(1) リチウムイオン電池用の新しい導電材料の開発

 データ数4万を超える炭素材料の物性データベースを構築し、このデータべースに基づくAIによる選別・評価から、導電性に優れ、電池寿命を延ばす効果のあるリチウムイオン電池用の導電材料の開発に成功しました。

 図1(左)が開発した導電材料で、電池の容量保持率や導電性などの要求物性に対して最適に配合した2種類のカーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブとマルチウォールカーボンナノチューブ)です。図1(右)は電極(正極)の電子顕微鏡像で、苔のように付着した紐状のものが開発した導電材料です。活物質に絡みつく状態が確認できます。

 電極は、主材料である活物質をバインダー(結合材)である樹脂に混合して成形します。それに添加する導電助剤は、活物質同士や金属箔(集電帯)をつなぐ電流の経路を形成しますが、その助剤に最適なカーボンナノチューブの種類やその配合を決定することにより、電池の寿命向上につながる高い容量保持率と優れた導電性を実現しました。

 この成果は、データベースに基づくAIの活用による材料開発のロールモデルと言うことができます。

fig1

  図1(左) 開発した導電材料

     (右) 開発導電材料を適用した電極(正極)の電子顕微鏡写真

 

(2) リアルタイム・オンライン二次電池寿命評価システム

 リチウムイオン電池を180個試作し、2年に渡って各々4,000回に及ぶ充放電サイクル試験と最大8,000時間の満充電放置試験を実施することで、電池の劣化特性に関する約1万5,000のデータを採取しました。このデータからデータベースを構築し、IoTを活用する「リアルタイム・オンライン二次電池寿命評価システム」を開発しました。

 システムでは、出力・容量の異なる蓄電池に特性を検出する検出器を設け、クラウドにある劣化診断ツールにデータを送信し診断を行います。結果は、劣化状況を確認するソフトによりスマートフォン等の端末で確認できます。これにより、これまで現場に出向き、一旦設備の運転を止めて行わなければならなかった蓄電池の劣化診断が、稼働したままの状態で、遠隔から可能になります。

fig2

図2 リアルタイム・オンライン二次電池寿命評価システムのイメージ

   (知の拠点あいち実験室と河村電器産業での実証試験の構成例)

3 期待される成果と今後の展開

 新しい導電材料は、リチウムイオン電池の高性能化への貢献が期待され、本年度株式会社名城ナノカーボンにて受注販売を開始する予定です。二次電池寿命評価システムは、自然エネルギーの普及・インフラ整備を加速する役割を担うものと期待され、河村電器産業株式会社がシステムの製品化及び評価サービスの運用を予定しています。

 将来的には、次世代の二次電池として期待されている全固体電池へと展開していきます。  

4  社会・県内産業・県民への貢献

 
社会への貢献 自然エネルギーの活用促進によるCO2削減。リチウムやコバルト等、遷移金属の省資源化。電池の供給不足の懸念解消。
県内産業への貢献 電気自動車の普及、販売拡大へ貢献する。新エネルギー関連産業の発展へ寄与する。
県民への貢献 関連産業の活性化による雇用機会の増加。

5 問合せ先

【重点研究プロジェクト全体に関すること】

    (1)あいち産業科学技術総合センター 企画連携部

         担当:福田、半谷、門川

         所在地:豊田市八草町秋合1267番1

         電話:0561-76-8306

    (2)公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部

         担当:佐野、安藤、田草川

         所在地:豊田市八草町秋合1267番1

         電話:0561-76-8370

【本開発内容に関すること】

    (開発技術に関すること)      

         名古屋大学 未来社会創造機構 社会イノベーションデザイン学センター

         担当:特任教授 渡部 孝

         所在地:名古屋市千種区不老町

         電話:052-747-6846(代表)

    (導電材料に関すること)

         株式会社名城ナノカーボン

         担当:代表取締役 橋本 剛 (はしもと つよし)

         所在地:名古屋市守山区下志段味穴ヶ洞2271-129 サイエンス交流プラザ

         電話:052-736-2322

    (二次電池寿命評価システムに関すること)

         河村電器産業株式会社

         担当:技師長 小西 功次 (こにし こうじ)

         所在地:瀬戸市暁町3番86

         電話:080-4094-5325

用語説明

※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト

 付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」を実施し、2019年度からは「重点研究プロジェクトIII期」を実施。

「重点研究プロジェクトIII期」の概要

実施期間

2019年度から2021年度まで

参画機関

19大学 12研究開発機関等  106社(うち中小企業68社)

(2022年2月時点)

プロジェクト名

・近未来自動車技術開発プロジェクト(プロジェクトV)

・先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI)

・革新的モノづくり技術開発プロジェクト(プロジェクトM)

 

※2 先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI)

概 要

モノづくり現場の設計・生産・検査から、農業・健康長寿までの幅広い分野において、AI・IoT・ビッグデータの活用を推進するとともに、ロボット高度化やエネルギー最適配分のための水素蓄電の技術開発に取り組む。

研究テーマ

(1) 大規模材料データ及びCAEによる自動車向け設計生産技術

(2) 二次電池の材料開発/寿命評価用データベース構築とAI/IoT応用

(3) 5G/AIを活用したロボットプラットフォームとロボットサービスの研究開発

(4) 分野適応技術による自然言語処理技術のビジネス展開

(5) 中小工場を再エネ化する水素蓄電・ネットワーク対応AIエンジン

(6) 直流スマートファクトリー実現に向けた変換装置の開発

(7) 農業ビッグデータ活用によるロボティックグリーンハウスの実現

(8) 幸福長寿な暮らしをかなえる自然に活動的となる住まいの研究開発

(9) AIを用いた粉体原料の物性に関する予測システムの構築

参画機関

11大学 10研究開発機関等 37社(うち中小企業23社)(2022年2月時点)

 

※3 二次電池

 一度放電してしまうと廃棄することになる乾電池等の使い切り電池(一次電池)に対して、二次電池は、充電により繰り返し使用することができる電池。

 

※4 二次電池の材料開発/寿命評価用データベース構築とAI/IoT応用

概 要

高性能二次電池の開発が急務であるが、未解明なメカニズムの解明や、正確な電池の寿命予測が求められている。そこで、電池材料(負極活物質、固体電解質、正極活物質、導電助剤等)の特性制御に繋がるAIのためのデータベースを整備し、CAEを用いた特性予測を可能にする。また、IoTの活用によるリアルタイムの寿命評価を目指す。

研究リーダー

名古屋大学 特任教授 渡部 孝 氏

事業化リーダー

トヨタ自動車株式会社 射場 英紀 (いば ひでき) 氏

河村電器産業株式会社 小西 功次 (こにし こうじ) 氏

参加機関

(五十音順)

〔企業〕

河村電器産業株式会社、トヨタ自動車株式会社、株式会社名城ナノカーボン

〔大学〕

東北大学、名古屋大学

〔公的研究機関〕

あいち産業科学技術総合センター、あいちシンクロトロン光センター、公益財団法人科学技術交流財団、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構