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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期」農作物の生育・収穫予測システムを開発しました~農業ビッグデータ活用による施設園芸の効率化を目指して~
愛知県と公益財団法人科学技術交流財団では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期※1」を2019年度から実施しています。
この度、本プロジェクトの「先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト※2」の研究テーマの一つである「農業ビッグデータ活用によるロボティックグリーンハウスの実現※3」において、豊橋技術科学大学の三浦純(みうら じゅん)教授らの研究グループが、農業用ハウスなどの施設園芸において、ロボット技術を用いた植物の生育状態と環境の自動計測及び計測データ(農業ビッグデータ)のAIによる解析で、農作物の生育診断と収穫予測を可能にする技術を開発しました。
本成果により、農業の省人化と自動化や安定した生産に貢献できます。今後、更なるデータ集積によるシステムの改良及び装置の小型化・低価格化を図り、商品化を目指します。
1 開発の背景
愛知県の主要な農業生産の形態である施設園芸は、近年、環境制御システムの導入により更なる増産や安定生産への流れが加速しています。県内の施設園芸の施設は、2000から3000m2程度の小規模のハウスが分散している形態が最も多くなっています。これらの小規模なハウスは外気と接する面積が大きく、ハウス内やハウスごとの環境が不均一になりがちであるため、生産者が植物の生育状態を正確に把握・診断し、きめ細かな環境制御を行う必要があります。そのため人手がかかり、規模拡大が困難となっていました。
また、ハウス内の環境要因と生育状態を関連付けた数値データ(農業ビッグデータ)は存在しておらず、生育判断は人間の経験によっているため、安定的な生産に対して課題がありました。
2 開発の概要
本研究チームでは上記の問題を解決するため、環境要因と生育状態を関連付けた農業ビッグデータを収集・解析し、収穫予測や異常検知などの栽培管理に役立てることを目指しました。
本プロジェクトではキュウリを対象作物として、AI・ロボット技術を導入して施設内の作物の生体情報を長期間にわたり取得し、従来生産者が経験的に行ってきた生育判断を、自動で生育診断と収量予測が可能なシステムを開発しました。
<一連のシステム概要>
- 「自律移動型の生育観測ロボット」ハウスの狭い通路を畝(うね)にぶつからず移動し、生育情報と環境情報を取得できます。
- 「設置型の生育観測システム」小規模なハウスにも導入可能で、1.のロボットと同様に生育情報と環境情報を長期にわたって取得できます。
- 「植物画像認識システム」カラー画像からキュウリの葉や実を識別するための画像処理技術及びAIによる生育状態の効率的な学習のための学習データを自動生成します。
- 「生産現場における光合成の計測技術と、光合成の環境応答モデルに基づく環境制御技術」
- 「農業ビッグデータ収集・保存のためのサーバシステム」得られた農業ビッグデータの解析により、環境要因と生育状態を関連付ける環境応答モデル・収量予測モデルを生成します。
- 「生産者への情報提供」ハウスの環境情報や収量予測をスマートフォン等に送信します。
図 生育診断・収穫予測システムの概要
3 期待される成果と今後の展開
施設園芸の省人化・効率化による収益性と競争力の向上、労働環境の改善が期待できます。今後は、開発した技術を長期の実験を通して更に改良するとともに、より多くのデータを集積しモデルの改良を行います。また、各種装置の小型化、低価格化により商品化を目指します。
4 社会・県内産業・県民への貢献
社会への貢献 | 「農産業」のイノベーションが期待できる。 |
県内産業への貢献 | 施設園芸の省人化・効率化による収益性と競争力の向上、労働環境の改善が期待できる。 |
県民への貢献 | 安全で高品質な農産物を安く供給できる。また、労働環境の改善により、若年者の就農促進が期待できる。 |
5 問合せ先
【重点研究プロジェクト全体に関すること】
・あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
担当:福田、半谷、門川
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8306
・公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:佐野、安藤、田草川
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8370
【本開発内容に関すること】
(開発技術に関すること)
豊橋技術科学大学 情報・知能工学系
担当:教授 三浦 純 (みうら じゅん)
所在地:豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
電話:0532-44-6773
(開発システムに関すること)
シンフォニアテクノロジー株式会社
担当:室長 爪 光男 (つめ みつお)
所在地:東京都港区芝大門1-1-30 芝NBFタワー
電話:03-5473-1812
用語説明
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト
付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」を実施し、2019年度からは「重点研究プロジェクトIII期」を実施。
「重点研究プロジェクトIII期」の概要
実施期間 |
2019年度から2021年度まで |
参画機関 |
19大学 12研究開発機関等 106社(うち中小企業68社) (2022年1月時点) |
プロジェクト名 |
・近未来自動車技術開発プロジェクト(プロジェクトV) ・先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI) ・革新的モノづくり技術開発プロジェクト(プロジェクトM) |
※2 先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI)
概 要 |
モノづくり現場の設計・生産・検査から、農業・健康長寿までの幅広い分野において、AI・IoT・ビッグデータの活用を推進するとともに、ロボット高度化やエネルギー最適配分のための水素蓄電の技術開発に取り組む。 |
研究テーマ |
(1) 大規模材料データ及びCAEによる自動車向け設計生産技術 (2) 2次電池の材料開発/寿命評価用データベース構築とAI/IoT応用 (3) 5G/AIを活用したロボットプラットフォームとロボットサービスの研究開発 (4) 分野適応技術による自然言語処理技術のビジネス展開 (5) 中小工場を再エネ化する水素蓄電・ネットワーク対応AIエンジン (6) 直流スマートファクトリー実現に向けた変換装置の開発 (7) 農業ビッグデータ活用によるロボティックグリーンハウスの実現 (8) 幸福長寿な暮らしをかなえる自然に活動的となる住まいの研究開発 (9) AIを用いた粉体原料の物性に関する予測システムの構築 |
参画機関 |
11大学 10研究開発機関等 37社(うち中小企業23社)(2022年1月時点) |
※3 農業ビッグデータ活用によるロボティックグリーンハウスの実現
概 要 |
植物の生育状態および環境状態の自動計測と、計測されたデータに基づく植物生育の環境応答モデルに基づいて、農業ビッグデータを構築し、生育診断に利用する。また、病害虫発生事象と環境要因との関係をモデル化し、病害予防に利用する。 |
研究リーダー |
豊橋技術科学大学 教授 三浦 純 氏 |
事業化リーダー |
シンフォニアテクノロジー株式会社 爪 光男 氏 株式会社トヨテック 位高 光俊 (やごと みつとし) 氏 |
参加機関 (五十音順) |
〔企業〕 株式会社アイ・シー・エス、愛知県経済農業協同組合連合会営農支援センター、シンフォニアテクノロジー株式会社、株式会社テクノサイエンス、株式会社トヨテック、西三河農業協同組合、PLANT DATA株式会社 〔大学〕 豊橋技術科学大学 〔研究開発機関等〕 愛知県西三河農林水産事務所、愛知県農業総合試験場、あいち産業科学技術総合センター、公益財団法人科学技術交流財団 |