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第41回「全日本中学生水の作文コンクール」愛知県表彰 最優秀賞 『コップ一杯の水』
『コップ一杯の水』 津島市立藤浪中学校 3年 森 大剛(もり だいごう)
祖父が死んだ。長く病気を患っていたがそれは突然の出来事だった。
同じ市内にある母の実家は自転車でも行くことが出来る距離にある。近くには大きな公園があり、春には桜や藤が咲き誇る。割と好きな場所だ。その家に親戚の人が入れ替わりやってきた。日頃から人の出入りの多い家なのでいつもと変わらない光景に見える。違うのは祖父の声が聞こえないということ、やっぱり日常とは違った。
納棺師の人が祖父はどんな飲み物が好きだったか聞いてきた。お供えするためだ。納棺師さんはお酒って答えるだろうと予想していたみたいだったが祖母は「お水」と答えた。その答えに僕も納得だ。祖父はいつもコップに冷蔵庫で冷やした水を注ぎ「うまい、うまい」と飲んでいたからだ。
祖父の傍らに水が供えられた。それを見て水はめぐるものだとふと思った。僕達の体の中もめぐるし、自然界でも循環している。人の命には限りがあるが水は無限のように思えてくる。
「水は限りある資源です」どこかでそんなポスターを見たことがある。地球は水の惑星と言われている。たくさんの水があるはずだ。しかし地球上のほとんどが海水で人が利用出来る淡水はわずか0.01%ほどしかない。人は飲料だけでなく農業にも工業にも水を使う。僕の知らない所で大量の水が使われている。安定的な水の供給を実現させたのはダムの存在だ。日本の至る所でダムが建設されている。ダムには大雨などによる河川の氾濫を防ぐ治水、水の力を利用した水力発電、ダムを見学する観光など利水以外にも役割がある。ダムからの水を受け取る取水施設は水質が良好で汚濁されていない場所で維持や管理が安全に行えるようになっている。
また水道法、下水道法、河川法、水質汚濁法などきれいな水を守るため、作るための様々な法律が施行されている。僕の飲むコップ一杯の水は、先人達のたくさんの知恵と努力によってつくられ、守られている。
しかし水道管の老朽化、耐震など今後の問題は山積みだ。バーチャルウォーターという考えも浸透しはじめている。バーチャルウォーターは仮想水と呼ばれ食料を輸入している国が輸入分の食料を自国で生産した時に必要とされる水の量のことである。1kgのとうもろこしを生産するのに1,800ℓ、牛肉1kgでは2万ℓの水が必要と計算されている。食糧の6割以上を輸入に頼っている日本は世界の国々に大量の水を使わせ、輸入していると言えるのである。
これまでの先人達の知恵を生かして今後の問題を解消していくのは僕たちの世代だ。そして水の未来を考えて今の僕に出来ること、それはやはり「節水」だ。世界中の水を使っていることを自覚し、節水を心がける生活をすることがおいしい水を守る小さくも大切な一歩である。
祖母の家の近くの公園で桜が咲いた。雨をいっぱい吸い上げたのだろう。とても綺麗だ。僕は中学3年生になった。コップ一杯の水を飲み干した。身体に染み渡っていくのがわかる。そしてもう一杯僕はコップに水を注いだ。そっと祖父に供えた。