豊橋市弥生町防災会(とよはししやよいちょうぼうさいかい)
豊橋市弥生町防災会は、平成11年に発生した竜巻災害を契機として、地域防災力向上に努めてきました。
そんな弥生町防災会の会長の小山さん、防災委員会委員長の滝川さん、防災指導員の竹内さん、根上さんにお話を伺いました。
(写真:左から根上さん、滝川さん、小山さん、竹内さん)
―まずは弥生町防災会の組織について簡単に教えてください。
他でもよくあるように、防災会の会長は自治会長が兼ねています。会長の下に「防災委員会」があり、防災に関する事全般は実質的に防災委員会で企画しています。
防災委員会を構成する委員は、各区長であったり、消火班・救出救護班といった役割ごとに設置している班の班長が充てられますが、委員の中でも特に、中心的な立場として運営に関わっているのが「防災指導員」です。
―豊橋市の竜巻災害が弥生町防災会の転機となったそうですが?
平成11年(1999年)9月に豊橋市で竜巻が発生して、弥生町をちょうど縦断していきました。町内に大きな被害が発生したんですが、その時、弥生町の自主防災組織である弥生町防災会は何もできなかったんです。
(写真:竜巻の様子 豊橋市中消防署からの撮影:豊橋市役所提供)
これではいけないということで動き始め、翌年に防災会の中の5名の有志により防災企画委員会(現在の防災委員会)を立上げました。
まずは、連絡網がないという反省点からトランシーバーを導入しました。その際に、(防災指導員の竹内さんがお住まいの)マンションの協力を得る事ができたのが大きくて、マンションの屋上にトランシーバーの中継器を設置することで、町内の全域での交信を行うことが可能となりました。
現在でも、月に2回トランシーバーの交信訓練を実施しています。
―その後どのような活動をされてきましたか?
平成18年に豊橋市の市民参加イベントに参加した時に、弥生町防災会の活動履歴を表にまとめたんですが、大体このような感じでやってきました。(下表:平成11年〜17年)
年 | 主な活動・出来事など |
H11 |
竜巻が弥生町を直撃 |
H12 |
5名の有志により「防災企画委員会」を立ち上げる |
特定小電力トランシーバー10台購入 |
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防災講話会 |
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トランシーバー7台追加購入 以降毎月2回交信訓練を行う |
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H13 |
防災訓練を実施 栄校区市民館 約110名参加 |
地震防災に関する町民の意識調査アンケートを実施 |
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トランシーバー中継機を設置 |
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町内消火器の経年、老朽化の調査をおこなう |
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町内消火器、消火栓の位置図を各世帯へ配布 |
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総合防災訓練を実施 栄小学校 約250名参加 |
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H14 |
防災講演会 高師原集会所 110名参加 |
豊橋市、東海地震対策強化地域に指定される |
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総合防災訓練を実施 栄小学校 240名参加 |
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防災学習会 栄校区市民館 95名参加 |
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豊橋市総合防災訓練 19名参加 |
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総合防災訓練 栄小学校 240名参加 |
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市の補助金による防災器具機材の購入 |
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H15 |
地震防災に関するアンケート実施 |
消防関係表彰式 豊橋市長感謝状受賞 |
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防災企画委員会を発展的解消し「防災委員会」とする |
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防災委員会が正式に町内組織となる |
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総合防災訓練 南部中学校 220名参加 |
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総合防災訓練後のアンケート実施 |
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自主防災だより 第1号発行 |
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テレビ生出演 |
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救助用機材の取扱い訓練 高師原神社境内 40名参加 |
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H16 |
防災倉庫の設置事業 完了 |
市の補助金による防災器具機材の購入 |
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総合防災訓練 栄小学校 220名参加 |
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H17 |
家具転倒防止講習会 |
―かなり積極的な取組をされていますね。平成14年の「豊橋市総合防災訓練」ではどのような事を行われたのですか?
豊橋市が実施する総合防災訓練に地域の自主防災組織として参加しました。基本的には9月1日の1日間、行政や企業、防災関係機関等が一同に介して実施する訓練なのですが、弥生町防災会だけは先行して前日の8月31日の夕方から参加し、「災害時における避難生活体験」という訓練を行いました。
これは、木材とブルーシートを使って仮設のテントを設置し、そこで一晩すごすという形で、実際の避難生活をシミュレートするものでした。
(写真:テント設営の様子)
―かなり本格的ですね。大変だったのではないですか?
食用油を利用した照明を使用したり、市の給水タンクとハソリ(大鍋)を使った炊き出しを実施するなど徹底しました。当日雨も降ったので、大変でしたよ。
しかし、良い訓練ができたと思いますし、この取組以後、豊橋市の弥生町防災会は積極的な取組をしているということで、何度かテレビ局の取材も受けたりしました。
―訓練は毎年実施されていますね。
そうですね。平成18年からは新しい取組として、町内にある弥生病院と一緒になって訓練を実施しています。
―どのようなきっかけで実現したのですか?
ある時、所用で豊橋市の南消防署へ行っていたところ、弥生病院の担当の方も訓練の打合せで同署へ来られてまして、もともと消防署の方には災害時には町内にある弥生病院が拠点として重要だと考えていることを話していたものですから、署の方の仲介で、自主防災会と病院との訓練のタイアップについて相談をし、実際に実施に結びついたというわけです。
―訓練の内容としてはどのような感じなんですか?
最初の年(平成19年)は、事前にいろいろ計画したのにも関わらず雨が降ったんですよ。大雨警報が発令されるほどの雨だったんですが、せっかくだから何かやろうということで、当初の予定は変更して、室内でAEDの操作講習会と救命講習を実施しました。その際は、消防署の救命指導官にも講師として協力してもらっています。
(写真:救命救急講習の様子)
平成20年は、予定通り訓練を行う事ができまして、病院関係者によるトリアージ(※)訓練、参加者全員による水バケツリレー、倒壊家屋からの救出救護訓練、担架や車いす等での負傷者の搬送訓練などを実施しました。
地域住民が災害時の医療機関の負傷者への対応が理解できたことや、医療機関と協働して負傷者の搬送訓練を実施したことなどが大きな成果だと思います。
(※)トリアージ:医療機能が制約される状況(例:災害時)で、一人でも多くの傷病者に対して最善の治療を行うため、傷病者の緊急度や重傷度によって治療や後方搬送の優先順位を決めること
(写真:負傷者の搬送訓練の様子)
―他の取組として家具転倒防止講習会を実施されたと聞いています。
家具転倒防止講習会は、平成17年に8回実施し、町内住民80名が参加しました。
内容は、東京消防庁の家具類の転倒実験の結果紹介を交えながら、実際の家具固定方法の説明などをし、実技として家具の模型を用意して、固定の方法を実体験してもらいました。
―家具固定は専門的な知識が必要だと思いますが、どのように資料や模型等を準備されたんでしょうか?
資料は防災委員で作成しました。今はインターネットなんかでも色々な知識を集めることができますので、作成することは可能です。資料作りが得意な人材も、どこの地域にもいるわけですしね。
また、家具模型も防災委員で作成しました。(防災指導員の根上さんが)建築業に携わっているため、従来から訓練時の倒壊家屋の模型等いろいろなものを作成しています。
―家具転倒防止講習会はどのような効果がありましたか?
具体的な固定の手順・・・つまり、プッシュピンを用いて下地の位置調べをし、下地がない場合の下地の作り方を考え、実際にインパクトドライバーを用いて、模型の家具を使って家具固定を実体験してもらいましたので非常に勉強になったと思います。
また、プッシュピンやインパクトドライバー等の工具は防災会で購入して、町内の希望者に貸し出す制度にしていますので、各自が自宅の家具を固定することに役立っています。
―専門的な工具を持っている人は少ないと思いますので、町で準備しているというのは心強いですね。
これらの様々な取組は、どのように町の皆さんに伝えているのですか?
防災委員会で「防災だより」という情報誌を発行して、各戸配布しています。訓練やイベントの告知だけでなく、それらの取組に関するアンケートの集計結果などを載せています。
防災だよりでは、ほかに地震等の防災知識の向上になるような情報を掲載しています。
―継続して行うのは大変ですね。
ずっと防災委員で作っていましたが、最近は町内の若い世代の人が作成を手伝ってくれています。やる気を出してやっていれば、どんどん人が集まって来てくれることを実感しています。
長い事続けていますが、今は弥生町防災会は良い体制になっているんじゃないかと思います。
―そうですね、地域の皆さんが積極的に参加することで、より防災力向上につながりますよね。
では最後に、他の自主防災組織の参考となるような、弥生町防災会の活動の秘訣のようなものがありましたら教えてください。
町民の皆さんが新鮮さを失わないように、防災委員会は色々な事を企画して、防災活動に取り入れてきました。新しい事を考えるのは大変ですが、それによって人が集まって喜んでくれれば、「またがんばろう」という気持ちになるわけです。
そのためには、もう一つ大事なこととして、何か活動をすれば必ずアンケートを実施して、その結果を次の取組みに活かすようにしています。
また、各地域には必ず特定の分野に強い人がいると思います。例えば大工さんであったり、資料作りを得意としている人であったりですが、それらの人の力を活かすことができれば、より良い活動につなげることができるんじゃないかと思います。
(平成20年11月13日 豊橋市弥生町高師原集会所)