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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」 モノづくり現場の試作工程を削減するシミュレーション技術を開発 ~トライボロジーCAEによる摩擦摩耗の高精度予測が可能に~
愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1IV期」を2022年度から実施しています。
この度、「プロジェクトDX※2」の研究テーマ「モノづくり現場の試作レス化/DXを加速するトライボCAE(シーエーイー)※3開発」※4において、名古屋工業大学(名古屋市)の前川覚(まえがわさとる)准教授、株式会社デンソー(刈谷市)、サンワケミカル株式会社(愛西市)等の研究グループが、摩擦(まさつ)や摩耗(まもう)などの複雑なトライボロジー※5現象を、高精度に解析・予測可能なトライボロジーCAEを開発しました。
本技術により、(1)機械部品等の製品設計過程における試作工程の削減、及び(2)塑性(そせい)加工※6等の製造プロセス設計における試作工程の削減が可能となりました。さらに、本技術をベースに種々のメーカーの課題解決、技術指導を担う目的で、名古屋工業大学発のベンチャー企業が設立されました。今後は、本技術の幅広い展開による、県内メーカーの技術力向上への貢献が期待されます。
1 開発の背景
近年のCAE技術の発展により、モノづくりの現場においてもその活用が急務となっています。複数部品の複雑な相互作用を計算する大規模CAE技術や鍛造加工やプレス加工などの製造プロセスCAE技術など、すでに製品開発の現場で実用化されているものも多い一方で、摩擦や摩耗といった複雑なトライボロジー現象のCAE予測については未だ不十分です。この摩擦摩耗予測の難しさがモノづくり現場の試作レス化に向けた大きな障害になっています。言い換えれば、摩擦摩耗のCAE予測精度を向上させることは、試作レス化による大幅な設計コストの低減や設計期間の短縮、ひいてはモノづくりDXの加速に向けて必要な研究課題です。
2 開発の概要
(1)トライボロジーCAEによるコンプレッサの耐摩耗設計の高能率化
コンプレッサを例に、トライボロジーCAEの現状を説明します。従来の設計では、個々の機械要素(すべり軸受)を独立してCAE解析することは可能ですが、摩擦摩耗の予測精度が不十分であり、各要素間の相互作用を考慮したCAE開発は未達成でした。そこで本研究ではコンプレッサ用軸受3つの連成問題の解析を可能としたトライボロジーCAEモデルを開発しました(図1)。さらに摩擦摩耗の予測精度を向上させたCAEにより、摩耗発生に対する設計パラメータの感度解析が高速で実行可能になり、計算コストの大幅な低減が可能になりました。
図1 複数軸受連成解析用トライボロジーCAEの概要
(2)トライボロジーCAEによる塑性加工金型設計での試作工程削減
多くの機械加工メーカー(鍛造メーカーやプレス加工メーカーなど)では、金型設計において市販のCAE解析ソフトを用いた数値シミュレーションを活用しています。しかしながら、実際にはCAE解析で設定する摩擦係数の合わせ込み作業が必要であり、金属材種や使用する潤滑油が変更になる度に、CAE解析と実験検証による摩擦係数の合わせ込み作業が必要となることから、多くのコストが生じています。したがって、製造プロセスにおける摩擦係数の合わせ込み作業を効率化するためには、潤滑油の摩擦低減作用を数値シミュレーションで予測可能な解析モデル及び摩擦係数データベースの構築が必要でした。そこで本研究では、摩擦面に任意の摩擦構成式を実装可能な塑性加工用トライボロジーCAEモデルを開発しました。さらに本研究プロジェクトオリジナルの摩擦構成式に基づいた新しいデータベースの開発を行いました。
(3)トライボロジー技術普及のための個別技術指導システムの構築
(2)における開発技術、及びトライボロジー・塑性加工学に基づくノウハウ、データ評価・分析手法を提供して個別の技術指導を行うことを目的として、トライボロジーCAE技術指導システムを構築しました(図2)。下記のようなステップにより、製造現場での個別の問題解決に取り組み、最終的に製造現場での摩擦係数の合わせ込み作業(試作サイクル)の削減が期待されます。
図2 トライボロジーCAE技術指導システムの構築
3 大学発ベンチャー設立
2024年7月1日、本プロジェクトで開発した技術を基に、名古屋工業大学発の新たなベンチャー企業として「スリーラボ株式会社」が設立されました。
(1)企業名 スリーラボ株式会社
(2)基本情報
設立年 2024年
代表 夏目航平(なつめこうへい)(名古屋工業大学 共同研究員)
副代表 前川 覚
本社所在地 愛知県豊川市
連絡先
電話番号:090-4404-1645
メールアドレス:kohei.natsume@three-labs.com
ウェブサイトURL:https://three-labs.com
(3)事業内容
・技術コンサルティング事業
ものづくり現場におけるトライボロジーと生産加工の課題に対して、専門知識と経験をもとに適切なソリューションを提供します。摩擦摩耗現象のCAE化や潤滑剤の選定や加工プロセスの改善など(具体的保有技術は下記参照)、製品の性能向上や生産性向上をサポートし、クライアントの競争力強化に貢献します。
【保有技術】
1.トライボロジー問題のCAE化技術
2.機械加工における加工条件及び工具形状設計技術
3.短パルスレーザを用いた切削工具刃先成形技術
・教育研修事業
定期的なセミナーを通して、トライボロジーや生産加工の専門知識から機械工学全般における基礎知識を提供します。ものづくり現場において必要不可欠案な基礎知識からDXに対応するための最新の専門知識までを提供することで、製造業のリスキリングを支援します。
4 期待される成果と今後の展開
新規に開発されたトライボロジーCAE及び新規データベースを用いて、メーカー固有の課題解決に向けた技術指導を行うことにより、製造現場での摩擦係数の合わせ込み作業(試作サイクル)を削減し、既存の開発スピードの高速化が期待できます。
今後は、今回設立されたベンチャー企業が主体となって、CAEソフトウェアの改良、種々のデータベースの構築を順次実施し、より複雑なトライボロジーの課題解決を可能にするシステム構築を目指す予定です。加えて Webサービスを活用した新しい形態のものづくりコンサルティングの展開を予定しています。
5 社会・県内産業・県民への貢献
社会への貢献 |
試作サイクルの削減によりエネルギー消費量を低減できることから、CO2削減への貢献が期待できる。 摩擦摩耗発生の予測精度が向上することで、機械部品の信頼性向上や長寿命化が期待できる。 |
県内産業への貢献 |
トライボロジー分野や機械加工分野での最先端技術による設計力のさらなる高度化により基幹産業メーカの技術力向上に貢献。また、基盤技術の幅広い共有化による県内中小メーカの競争力向上に貢献。 |
県民への貢献 |
愛知県の特徴であるモノづくり分野におけるDX人材の育成に貢献。試作サイクルの低減により労働環境の改善が期待できる。 |
6 問合せ先
【重点研究プロジェクト全体に関すること】
あいち産業科学技術総合センター 企画連携部企画室
担当:日渡、佐藤、村上
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8306
公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:佐野、安藤、金田
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
メール:juten-dx@astf.or.jp
電話:0561-76-8370 (*原則、メールにてお問合せ下さい)
【本開発内容に関すること】
(技術関連)
国立大学法人名古屋工業大学 大学院工学研究科
担当:前川 覚
所在地:名古屋市昭和区御器所町
電話:052-735-5336
【用語説明】
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト
付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクトIII期」を実施し、2022年8月から「重点研究プロジェクトIV期」を実施しています。
「重点研究プロジェクトIV期」の概要
実施期間 |
2022年度から2024年度まで |
参画機関 |
16大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社) (2024 年10月時点) |
プロジェクト名 |
・プロジェクトCore Industry ・プロジェクトDX ・プロジェクトSDGs |
※2 プロジェクトDX
研究テーマ |
【研究開発分野】デジタルテクノロジー・ICT D1 モノづくり現場の試作レス化/DXを加速するトライボCAE開発 D2 DXと小型工作機械が織り成す機械加工工場の省エネ改革 D3 MIをローカルに活用した生産プロセスのデジタル革新 D4 IT・AI技術を結集したスマートホスピタルの実現
D5 繊維産業に於けるAI自動検査システムの構築に関する研究開発 D6 〈弱いロボット〉概念に基づく学習環境のデザインと社会実装 D7 愛知農業を維持継続するための農作業軽労化汎用機械の開発と普及
D8 自動運転技術のスマートシティへの応用 D9 自動運転サービスを実現する安全性確保技術の開発と実証 |
参画機関 |
7大学 4研究開発機関等 30社(うち中小企業19社)(2024年10月時点) |
※3 CAE
Computer Aided Engineering(コンピュータ支援による設計)の略。コンピュータを活用して仮想的に実験や試作を行い、製品の性能予測や生産性の検討などを行うツール。
※4 モノづくり現場の試作レス化/DXを加速するトライボCAE開発
概要 |
近年のCAE技術の発展にともない、モノづくりにおけるCAEの活用が急務となっている。本プロジェクトでは、摩擦・摩耗の高精度予測を実現するトライボロジーCAEを開発する。摩擦・摩耗の高精度予測により、製造工程における試作の省略が可能となり、コスト削減や設計期間短縮に貢献できる。 |
研究リーダー |
名古屋工業大学 准教授 前川 覚 氏 |
参加機関 (五十音順) |
〔企業〕 株式会社デンソー、サンワケミカル株式会社 〔大学〕 国立大学法人名古屋工業大学(名古屋市) 〔公的研究機関〕 あいち産業科学技術総合センター(産業技術センター(刈谷市)) 公益財団法人科学技術交流財団(豊田市) |
※5 トライボロジー
摩擦・摩耗・潤滑・焼付き・軸受設計を含めた「相対運動しながら互いに影響を及ぼしあう二つの表面の間におこるすべての現象を対象とする科学と技術」の総称。機械や部品の低摩擦化、低摩耗化、表面損傷の低減を実現し、社会の省エネルギーおよび省資源化に貢献する学術分野のひとつ。
※6 塑性加工
塑性加工とは、加工物に力を加えることで変形させて形状を作り上げる加工のこと。
このページに関する問合せ先
あいち産業科学技術総合センター企画連携部
企画室(担当:日渡、佐藤、村上)
豊田市八草町秋合1267-1
電話:0561-76-8306