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「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトにおいて食中毒菌が簡単に調べられるソフトウエアを開発しました

ページID:0064390 掲載日:2013年9月3日更新 印刷ページ表示

平成25年9月3日(火曜日)発表

 愛知県は、公益財団法人科学技術交流財団に委託して大学などの研究シーズを企業の実用化・製品化につなげる産学行政連携の共同研究開発プロジェクト『「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト』(※1)を実施しています。

 このたび、「食の安心・安全技術開発プロジェクト」(※2)において、名城大学田村(たむら)廣人(ひろと)教授と株式会社島津製作所(京都府)(※3)の研究グループは、食料品等から分離された食中毒菌をはじめとする細菌を、株(※4)レベルで高精度・迅速に識別するソフトウエアを開発しました。

 これまで、食料品等から分離された細菌の株レベルの識別は、1~2日程度を要するうえ、遺伝子に関する専門的な知識が必要で、簡単に調べることが出来ませんでした。

 今回開発したソフトウエアは、細菌の株レベルの識別を15分程度で行うもので、検査員に専門的な知識が必要ありません。本ソフトウエアには、細菌の遺伝情報に関係するタンパク質の質量をデータベースとして蓄積できます。一方、食料品等から分離された細菌は、微生物測定専用の測定機器((株)島津製作所製MALDI-TOFMS(※5))で測定されます。本ソフトウエアが、データベースと得られたタンパク質の質量とを照合することで、細菌の株レベルの識別ができるようになりました。

 本ソフトウエアを組み込んだシステムは、食品出荷前の細菌検査や食中毒が起きた際の汚染源の特定に活用が見込まれ、食の安心・安全で県内の食料品製造業界・食料品流通業界に大きく貢献します

1 開発の背景

 本県の食料品製造業は1,431事業所、製造品出荷額等1兆5,656億円で全国第2位(平成22年工業統計)であり、農業産出額は2,948億円で全国第6位(平成23年生産農業所得統計)を占め、本県は食に関する大きな集積を有しています。

 しかしながら、食料品や農作物においては、食の安心・安全を脅かす危険因子に食中毒があり、その発生状況は全国で年間約1,000件(厚生労働省統計)、本県でも昨年度40件発生しており、食の安心・安全を確保することは、県民生活を支える重要な課題です。

 食中毒は、細菌によるものが多く、細菌が付着した食品を飲食したことにより発生しています。食中毒が発生した場合は、食中毒の拡大を防ぐため、原因となった細菌などを素早く特定することが重要になります。しかし、従来の細菌検査では、習熟した技術が必要で時間もかかるため、消費者に提供する前の段階で検査することが実質的には不可能でした。そこで、食中毒菌を簡単・迅速に検査できる装置が、食料品製造業界・流通業界から強く求められていました。

2 開発品の概要

(1)システムの構成

 細菌の株レベルを識別する検査装置は、「本体」と「ソフトウエア」からなり、それぞれの役割は次のとおりです。

<構成>

本体(MALDI-TOFMS)と開発品(ソフトウエア)

<役割>

本体:細菌を構成する各種タンパク質の質量を測定する。

開発品:「測定値」と「予めDNA解析により得られたバイオマーカー(※6)」を照合し、細菌を株レベルで識別する。

 

(2)株レベル識別の原理

 まず、基準株(※7)または遺伝情報が明かな細菌について、遺伝情報に関係するタンパク質の質量をバイオマーカーとしてあらかじめ算出し、ソフトウエアに蓄積しておきます。

 次に、MALDI-TOFMSで株レベルの識別を行いたい細菌を測定します。測定すると図のような、マススペクトル(※8)とよばれる細菌の主要構成要素であるタンパク質の質量の情報に由来するパターンが得られます。得られたパターンのピークのうち、図の赤い文字で示した半数以上のピークが遺伝情報に関係するタンパク質を示しており、ピークの位置がタンパク質の質量の実測値を示します。

 そして、ソフトウエアを用いてバイオマーカーと実測値が一致するかを調べます。一致すれば同じタンパク質と見なされるため、細菌が株レベルで識別できます。

(3)従来技術との比較

本開発品と従来技術との比較を下表に示します。

従来技術との比較
 項目本技術開発 

従来技術
(PCR法(※9)) 

 培養後の検査時間
(測定時間)

 15分程度
(2分程度)

 1~2日程度
 測定者 専門的な知識が不要 専門的な知識が必要
 測定コスト 安価 高価

3 今後の展開

 本ソフトウエアは、分析機器や科学機器を展示するJASIS(幕張メッセで、9月4日から6日まで開催)に出展されます。大学や研究機関等へ向けて受注活動を始めると共に、今後、データベースの拡充、操作性の改良などを行い、県内の食料品製造業界・流通業界へ広く普及を図ります。

4 問合せ先

・プロジェクト全体に関すること

あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
(1)担  当:青井、鹿野
(2)所 在 地:豊田市八草町秋合1267番1
(3)電話:0561-76-8306
(4)F A X:0561-76-8309

公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
(1)担  当:青木、松村、中山
(2)所 在 地:豊田市八草町秋合1267番1
(3)電話:0561-76-8370
(4)F A X:0561-21-1653

・本開発の技術内容に関すること

名城大学農学部
(1)担  当:教授 田村 廣人
(2)所 在 地:名古屋市天白区塩釜口1-501
(3)電話:052-838-2446
(4)F A X:052-833-5524

・本開発のソフトウエアに関すること

株式会社島津製作所
(1)担  当:広報室
(2)所 在 地:京都府京都市中京区西ノ京桑原町1
(3)電話:075-823-1110
(4)F A X:075-823-1348

用語説明

※1 「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト

 愛・地球博跡地に整備された付加価値の高いモノづくり技術の研究開発拠点である「知の拠点あいち」で行われている産学行政の共同研究プロジェクト。大学などの研究シーズを企業の製品化・事業化へつなげる橋渡しの役割を担う。

※2 食の安心・安全技術開発プロジェクト

 <プロジェクトリーダー>
豊橋技術科学大学大学院工学研究科 教授 田中三郎 氏

 <内容>
全国有数の食品工業の集積地であり、多様な農産物を産出する本県において、食品や農産物に含まれる有害化学物質、固形異物、微生物を高精度、迅速、安価に検査する技術を確立する

 <参加機関>
10大学6公的研究機関24企業(うち中小企業7社)(平成25年8月1日現在)

 ・うち大学
豊橋技術科学大学、名古屋大学、名古屋工業大学、名城大学、中部大学、名古屋市立大学、青山学院大学、富山大学、金沢工業大学、香川大学

 ・うち公的研究機関
愛知県衛生研究所、愛知県がんセンター、愛知県農業総合試験場、あいち産業科学技術総合センター、(公財)科学技術交流財団、(公財)京都高度技術研究所   

※3 株式会社島津製作所

 京都府に本社を置く、分析・計測機器、医用機器、航空機器、産業機器を開発・製造する企業。

※4 株

 株は細菌を区分する基本単位のこと。それぞれの株には、個別に名前が付いている。
(参考)大腸菌を例とした区分

 

大腸菌を例とした区分の例
 
区分
(大区分)

抗原型 
(小区分)
 株 
 大腸菌  O157個別番号 

※5 MALDI-TOFMS(マルディトフマス、Matrix Assisted Laser Desorption Ionization Time of Flight Mass Spectrometerの略)

 マトリクス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析計。タンパク質などの高分子(質量の大きい化合物)を特殊な薬品と混合し、レーザーを当て壊さずイオン化(電気を帯びた状態)し、イオン化した化合物を飛ばしてその飛行時間の違いから質量を割り出す装置。高分子を壊さずにイオン化する技術を開発したことで(株)島津製作所の田中耕一氏がノーベル賞を受賞した。

※6 バイオマーカー

 生体内(ここでは細菌内)に含まれる物質を用いて、生物が発する生体情報を数値化・定量化した指標のこと。タンパク質、遺伝子、糖質などの代謝物などが指標に用いられる。

※7 基準株

 種の命名の際に基準として用いられた株のこと。

※8 マススペクトル

 縦軸を検出強度、横軸を質量とした図。特定のピークから、その物質の持つ成分や得られたピークの全体の形から物質を特定することができる。

※9 PCR法(ピーシーアール法)

 細菌中のDNAを調べて、細菌を識別する方法。細菌から抽出したDNAを増幅し、増幅したDNAの配列データをデータベースと照合することで、細菌を識別する。

問合せ

あいち産業科学技術総合センター
企画連携部企画室
担当 青井、鹿野
ダイヤルイン 0561-76-8306

愛知県産業労働部産業科学技術課
科学技術グループ
担当 吉富、中川
内線 3383 3382
ダイヤルイン 052-954-6351